阿波学会研究紀要


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徳島県郷土研究論文集  
剣山周辺の民家

日本建築学会徳島県支部  酒巻芳保

 

 徳島縣を縦に四国山脈がはしり、深い山岳地帯である。その中心点である劍山西麓祖谷川の渓谷に点在し、古い平面を持つ山村を、東祖谷山村、西祖谷山村といゝ、大正9年3月県道祖谷街道が通じ、近代的な文化が導入せられるまで、外部の他の村落との交通は余り活溌でなく、深い山と絶壁の谷につゝまれた、陸の孤島として存在した。秘境的な山村で、岐阜縣の白川、熊本縣の五家荘、椎葉等と共に、注目せられている村である。

 これら山村部落には、平家の落人が入山したといゝ伝えられているが、この問題は別として、東、西祖谷山村地方に、今尚残されている農家の平面(間取り)は、他の平地農家に見られない平面形式である。

 平地農家の平面(間取り)―多く田字型

 祖谷山地方農家の平面―二室、三室併列型

 右の如く平地農家の大部分が、田字型であるに対し、祖谷山地方の最も簡単なものは二室併列型であり、多くは三室併列型で、平地農家の平面と全然趣を異にしている。

 三室併列型(三ツ目)の平面の多くは、「中の間」を中心として上手に「おもて」下手に「には」となつており、部屋には「いろり」があり、平常の煮物一切がこれでなされている。

 裏側には窓がなく、全部壁で外部は割竹で保護せられている。

 前面には内椽があり、更に5〜6寸下りて切椽がある。来客はこの地椽より出入し、特に玄関、踏込みがもうけられていない。

 屋根は茅葺(厚さ1.3尺以上)寄せ棟で、勾配急である。

 屋根を茅葺にする理由

1 材料の入手容易

2 修理葺替簡易

3 耐久力に富む(40〜50年)

4 冬暖夏涼の効果

 棟飾は杉皮、桧皮でしつかりと押えられ、山頂を渡る強風や、谷間から吹き上げる風から、めくられる事を守つている。

 以上のような平面構造を持つ、即ち祖谷型のものが、他の劍山周辺山村にあることがわかつたのである。即ち美馬郡一宇村、麻植郡木屋平村、那賀郡坂州、沢谷村等全く祖谷型の平面、構造を持つたものである。

 これら劍山周辺山村農家の平面型は併列型で、近世における田字型平面型式より古く、部屋分化前の形で、「いろり」を中心とする、一室の広間型の平面型式に、続くものであると考えられる。

 更に広椽、切椽(落椽)等があることは、珍らしく、主殿造りの手法も、うかゞうことができる。

 これらの構造手法を見ると、この山村に自然発生的に工夫され、発達したものと思えないが、何かの理由でこのような、古い農家が交通の不便その他から、現存しているのではないかと考えられるのである。

 


徳島県立図書館