阿波学会研究紀要

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徳島県郷土研究論文集第二集  
アワビの生育速度について 徳島生物学会  岡芳包
アワビの生育速度について   徳島生物学会 岡芳包

 アワビは外洋性の巻貝で、徳島縣では海部郡沿岸漁業の重要漁獲物である。漁業取締規則によつて、漁期は毎年十月から年末まで、又殻長では9糎以下を禁漁としているが、単価が著しく高いために濫獲されて、年々漁獲量が減少する危險性がある。私は数年来主として海部郡阿部村に於ける男女あまの体力医学的研究をつゞけているが、その際現地の要望に応じてあまの主要漁獲対象たるアワビの増殖方策を目標とする基礎的な調査研究を実施した。
 アワビは毎年十月から年末にかけて放卵し、海水中で受精後暫らくプランクトンとして浮遊生活を送つた後、適当條件に恵まれた岩礁に固着生育するが、これが9糎の殻長に達するまで果して何年かゝるかについては確実な研究結果が発表されていなかつた。そこで私は、阿部村大字阿部の女郎碆附近の一定海域内で、大小を問わず獲れる限のアワビを採取し、貝殻の長径と短径の度数分布曲線を求めたところ、長径9糎までに二峰型の曲線を得た。このことからアワビは受精後2年半乃至3年で殻長9糎以上に達することがほゞ確実に知られた。更にこれらのアワビに標識をつけてもとの海域に放養し、翌年採集して調べると殻長は先に得た分布曲線から予想される大きさに生育していたから、以上の知見は確認された訳である。
 海部郡沿海産のアワビは主としてムクロ(クロガイ、オガイ、オンガイ)、ヒラガイ(メガイ、メンガイ)、メダカ(マダカ)の3種で、以上の知見はムクロについて得たものであるが、他の2種についても結論に大差はない。
 以上の知見を基ソとして徳島縣水産試驗場は阿部その他2カ所に於て投石及びコンクリートブロツク投入による築磯法で、アワビ並びにその食餌たる海藻類(アラメ、カジメ、テングサ等)の増殖試驗を始めたが、私達は3年後の成果を期待している。
 (徳島大学医学部教授)


 



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