阿波学会研究紀要

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第三回郷土研究発表会  
阿部及び伊島の沿岸岩礁の海洋生物学的調査 徳島生物学会   

高島律三・幡井勉・岡田克弘・田村毅
〔研究テーマ〕   阿部及び伊島の沿岸岩礁の海洋生物学的調査
〔研究者と所属〕 高島律三・幡井勉・岡田克弘・田村毅  徳島生物学会
〔発表者〕    岡田克弘
〔要 旨〕
 阿部及び伊島の沿岸岩礁には、夏のアワアビまた冬のイセエビ漁場として水産上から相当の生産力が評価されている。本年の8月、阿波学会の主宰する総合科学調査に際し徳島生物学会は海洋岩礁の生産力が由来する海洋生物学的な生態条件を探求することを目的とした。
 このような目的には岩礁に底棲する生物群集の構成を徹底的に分析することが必要であるけれども、今回の調査は色々の制約をうけたため、単に底棲動物の部分的な採集をもとにして岩礁の生態的条件の察知をこころみたにすぎない。即ちカニ類、貝類、ウニ類及びサンゴ類など数十種の採集された材料について、外洋性または内湾性として想定される指標度を吟味し、それらの指標種の分布状態から生態的条件の一端をうかがい知ることができた。
 今回の調査方法は最も費用がかゝらないものの、広大な海洋岩礁域に対する研究方法としては不徹底きわまるもので、単なる予備的資料が得られたに過ぎない。けれどもこれらの資料から阿部及び伊島の沿岸岩礁のもつ内湾性の程度がほゞ判断され、また海部沿岸海域にたいする生物学的な新知見を想定することができた。
 阿部岩礁では典型的な外洋性指標動物は発見されなかった。また高い内湾度を示す指標動物もいず、多くは準内湾性の潮間帯動物と想定される種類であった。しかしこれらの動物もその垂直的分布をみると、内湾度の高い棲息所に比べてやゝ深い所に棲息する。おそらく阿部岩礁が波浪の高い準内湾性をもつことを意味するのであろう。従って阿部の岩礁は地形的に漠然と想像されるほどの外洋性を生態的には示していない。
 伊島の岩礁は地形的条件からも容易に想像されるように島の外側にある岩礁と内側の岩礁とでその性格は一変する。外側の岩礁では潮間帯動物相はきわめて貧弱で、典型的な内湾性指標動物は採集されなかった。しかし、外洋性指標動物と断定できる種類も亦わずかにその棲息が確められたにすぎない。要するに、準外洋性の岩礁と考えることができよう。伊島内側の岩礁は潮間帯内湾性の動物が多く、低い内湾性を示す岩礁と言える。
 以上の結果を数年前の出羽島の調査資料と対照して考察すると、伊島外側の海域から阿部沖を経て大島、日和佐、牟岐の三角地点を結ぶ海域に達するところに、海洋生物学的生態条件に不連続を劃する限界線を想定することができる。もちろん沿岸岩礁は局地的条件で内湾性を高められることも多いけれども、海部沿岸海域を概観すれば、ここに想定された不連続帯の外帯即ち日和佐以北の岩礁は内湾性に準ずる生態条件をもつ。このような海洋生物学的生態条件として内湾性の程度を正確に推定することは、海洋岩礁のもつ生産力の増強或は維持をはかる基本対策に重要な意義をもつであろう。


 



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