阿波学会研究紀要

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第五回郷土研究発表会  
県民の政治意識の実態分柝 富野敬邦
県民の政治意識の実態分柝

徳島大学教授 富野敬邦

 

(一)

 徳島大学綜合社会科学会の富野・橋本・岸本の三教授、岡部・福井の二助教授が学生約30名と共に一昨年企てた『農・山・漁村における選挙の生態調査』は、県選管、地方課、自治庁の後援もあり、平谷山村・由岐漁村・南井上農村を有為選択し、各地区毎に有権者の中から無作為抽出によって1/17抽出率で平谷76戸、由岐209戸、南井上120戸、計405戸に対し面接調査を行い、調査対象1戸に対し学生2名が後掲の別表の如き調査票を携行し逐条質問記入した。なお調査に当っては、農・山・漁村地域の社会経済的構造とそれに関連をもつ政治、選挙意識との連関性に特に注意を払ったことはいうまでもない。質問事項は40項目に及び、(一)環境事項、(二)選挙意識事項、(三)自治意識事項、(四)政治意識事項に夫々分類されている。選挙は衆議院選のみならず、県知事、県議、町村長、町村議の各種選挙にわたって調査が行われた。

 さらに調査の結果は、性別、年齢別、学歴別、職業別、階層別の各角度より実態分柝が試みられたのであった。

 

 いまここではこの調査の結果について詳細に言及する余裕をもたないが、とくに県民の政治意識の特質を示すような若干の諸点につき指摘しておきたい。(1)平地農村(3図)においては水田経営を中心とする農家経営が卓越し、しかもその経営は8反から1町内外のかなり規模の大きな経営であるだけに、各農家は独立の経営をいとなみ、それだけに横の関係が主となり縦の関係は比較的薄く、農家相互における封建的つながりを示すきずなは割合弱い。もちろん農家各戸の内部における状態をみると、山村や漁村に比し高年齢層の男子が世帯主(5図)として家族内の実権を握り前近代的な性格があり、封建遺制の礎地はなお残っているが、農家相互間の上下的、支配服従的つながりはあまり認められない。このことが平地農村住民の選挙意識なり投票行動に特異な様相をもたせていることは、調査の結果や聴き込みからも実証される。(2)これに対して山村(4図)及び漁村(2図)においては縦の関係が強く働いている。即ち経規模の零細な漁民(3図)の多い漁村においては漁業労働の特異性を如実に反映し、親方子方の関係で縦にしばられ、親方の言うことを聞かなければ食っていけないといった感じを持ちやすく上から下への関係が強固にかためられている。山村においてもまた特に林業関係の労働者が多く、自家の山林を持たぬ者(6図)の多い場合、その林業労働を通じて漁村に似た上下の支配被支配の傾向のあることが看取せられた。(3)しかし一面平地農村の社会構造の特色として同族性、地縁性が強く、基礎集団的傾向が強いのに対し、山村においては利益性、機能集団的傾向の出ていることも否定できない。山村で山地内部の集落は別として道路に沿う集落では近代性のいぶきも感ぜられ、山村全体として他の平地農村に比し近代的な社会構造への近接を思わせるものもある。これは山村や漁村が林業や漁業を通じて早く貨幣経済のいぶきを感じ、資本主義的考え方のより早く浸潤するモメントを持つためといえる。(4)かかる社会構造を念頭において考えると、平地農村が山村や漁村に比較し選挙の際に買収、饗応等の選挙違反行為に応じ易い(7図)のは、農家相互が横の関係で結ばれ縦の関係であまりむすばれていないことのためであり、上の階層に働きかけるだけでは多くの得票数の得られないためと考えられる。(5)この点漁村において、また山村においても強力な縦の組織をもつだけに上層部に働きかけることによって比較的容易に下部に浸透し得る基盤をもつといえる。それで階層別に選挙意識がどうあらわれているかをみた場合、漁村、次いで山村においては下層ほど選挙意識が低く、無関心で、無回答が多いことが証明せられた。このような社会では下層の者は「閉ぢこめられたもの」であり、いわば「生活への従属」がよみとられ、しかも一代かぎりではなく何代にわたってもその従属がみとめられる傾向がある。(6)郡部においても年齢別に選挙意識のあらわれをみると中年層以上の保守色に対し、青年団等を中心として青年層の一部に旺盛な革新熱の胎動が感じられる。しかし婦人の選挙意識は殊に山村漁村のCD層において低調で、無回答が多いのが目立った。なお一般に学歴が低いほど、階層が低いほど、老人になればなるほど選挙意識の低いことが実証された。(7)郡部においても革新票が相当延びたとの見方もあるが、いわゆる「組織票」としての自覚投票は目立たない。組織労働票は少くて未組織未成熟な半農半労的労働者や農民大衆が多く、革新票にあってもむしろ個人的なつながりによる票の動きが多い。(8)県会、市町村議会の分野では無所属が圧倒的に多くその殆んどが保守系であり、職業別も農業、団体役員、会社重役、医師等の保守性の強い職業層の人が多い。(9)投票率は漸次高まりつゝ7割前後であったが、婦人の投票率がやはり悪い。投票率と選挙の規模との関連をみると原則として選挙が小さくなるほど投票率も高くなるが、同時に情実因縁のつながりも増大(8図)している。(10)とくに農村などでは地縁票、地盤票、地元票、伝統的固定票が多く、町村議選では部落毎で票割りが行われることがある。候補者決定について家族内の話し合いが充分でなく、半分以上も主人の意見に従い、同一候補に家族票がまとまることが少くはない。いまなお地盤、看板、カバンが暗に認められ、因縁と情実、金のかかる選挙が跡をたたず、選挙の規模が小さいほどこの弊害が甚だしい。選挙ボス、いわゆる大小のマスターが票固めに奔走するのは昔とあまり変りがない。買収、饗応の事実を認むる回答が半数近くあり、不明を加えて事実は遙かに上廻っているらしい。(11)投票の動機についても自主性に乏しく外部の圧力に屈し、義理のため、地元だから、恩師や有力者にたのまれたので、世話になったから、同情でといったような回答が多い。(12)候補者決定の契機についても新聞記事、ラジオ放送、立会演説(9図)、選挙公報とにらみ合わせてという合理的判断にもとづくものが比較的に少くて、うわさ、評判がよい(11図)のでといったような主情的、非合理的契機にもとづく者が多い。(13)支持政党として一部の層を除いて特に農村では保守系が多い。政党と人物の何れを選ぶかとの質問に対し、農・山・漁村のいづれにおいても人物を主とする(10図)というのが遙かに多い。(14)選挙で飯を食うものが減らず、某候補などは今だに父ゆずりの泣きつき戦術で多くの共鳴を得ているなど、義理人情の前近代的浪曲調が選挙界から姿を消していない。(15)最後に指摘しておきたいのは政治意識、自治意識の低調である。無知と貧困の故とはいえ下層階級の面接者特に婦女子にして「分らぬ」「知らぬ」「云えない」と答える者が意外に多く、食うことだけで精一杯で政治は「他人様任せ」にしている。自分達の生活と政治とのつながりに対する認識に乏しく、国や県や町村への政治的ニードに於ても乏しく、時折の爆発的抗議やデモは見られても、政治的意見の日常開陳や不満解決のための日常闘争や話し合い(1213図)に慣れていない。地元議員との相談や地方議会の傍聴(12図)なども、一部の人を除いて少い。(16)これらの事実は新聞(14図)・ラジオ・雑誌等のマスコミ調査によっても裏づけられる。由岐・平谷・南井上の選挙の生態調査のみならず昨年の富岡・脇町・浅川・川東・東祖谷・昼間におけるマスコミ調査によっても文化、政治関心の低さ(14図)が確証された。(17)なおまた労働組合運動に対する判断(15図)、憲法改正に対する判断、公明選挙運動に対する判断等に於ても同様のことが確証されたのである。

 

(二)

 一昨年の農・山・漁村の選挙の生態調査のつづきとして、昨年度もほぼ同じ調査陣容をもって徳島市内における選挙の実態調査が行われた。徳島市を新町(商業地区)、福島(中小工業地区)、常三島(住宅地区)の三地区に分け、有権者名簿から18分の1(563)人を抽出、20数人の学生が後掲の調査票を携えて個々に面接した。今回の調査では前回調査の事項と共に、地盤、組織票の構造分柝、婦人票、家族票、浮動票の動向、投票を支配するものは何か、公明選挙運動の効果、農・山・漁村と市部との対比、保守と革新の対決等に調査のネライが置かれ、衆議院と市議選の二つにのみ限定し、さらに調査の結果を性別、年齢別、学歴別、職業別、階層別の各角度より分柝と究明のメスをふるったのである。

 ここでは枚数の制限もあり、主要なる諸点のみを摘出するに止めておきたい。(1)まづ家庭内の投票態度と行動(16図)についてであるが、家族が話合ったり、話合うこともあるというのが57%を占め、半数以上は多かれ少かれ相談によつている。それでは話合いの中心者は誰かとの質問に対し、中心者なしという答が男女平均して32.2%あるが、相変らず主人(夫)、父、兄といった男性中心の意見に従う者が59%も占めていることは、外では男女平等を唱えながらも、なお内では父権的家族制度が根強く残っていることを物語るものである(2)外部の圧力がやはり強いということが今度の調査で明かにせられたが、勧誘、強制、脅迫を受けていやな思いをしたことがあるかとの質問に対し、市議の場合73%、衆院の場合でも半数近い46.6%が「有る」と答えており、外部的圧力がいかに激しいかを物語っている(17図)。さらに内容を分析してみると(イ)義理ある人が無理にたのんできた54.5%(女48.2%)、(ロ)恩師上役などからたのまれた17.5%(21.5%)、(ハ)金銭取引関係からたのんできた、というのを合せて85.7%(83.8%)となっている。(ニ)贈物を持ってきたというのは男女共4%前後しかないが、これには謙遜もあり且又(イ)(ロ)(ハ)の依頼には多少の物品が必ず伴い、従って(ニ)の実数は報告以上になると考えられる。しかしその通り投票したかという問いには、「入れた」というのが24.1%に対し「入れない」が53.6%もあり、自主性、自意識の確立(18図)した人が郡部より約10%も多いことを示している。しかし「忘れた」「云えぬ」が22.3%もあることは、このうちの大部分が「入れた」部類に入るものと見られるだけに、外部的圧力の効力はやはり見落せない。(3)候補者選定の理由についての今回の調査によると、保守系は人物が主となり、革新派は党や政策が中心となっている(19図)。しかし市会議員の場合、候補者選定の一番の理由は地元や町内ということで22.4%、ついで人柄が20%、政策9.1%、自分が得をする8.1%評判7.4%、よく世話をする6.4%、有力な人6.1%となっていて、隣り近所やつき合いの重大さを教えている。これに反し衆議院選の場合は人柄22.1%、政策18.0%、評判16%、党13.1%有力者7.6%の順でつづいている。それをさらに保守・革新に分けてみると、保守の場合は党や政策で投票する人が29.6%に対して、人柄、評判、有力者といった人物主義で投票する者が51.8%もある反面、革新では人物主義での投票が32.3%に対し、党や政策によるものが50%も占めている。いづれにしても本格的な二大政党対立の時代に、投票の理由として党や政策を考える有権者が保守・革新を平均してわずかに3割台という現状は、まだまだ本県有権者の政治意識が成長しなければならぬことを教えている。(4)ところでこれまでの衆議院選挙で支持した政党はという質問に対して、保守と答えたもの新町地区46%、常三島地区37%、福島地区34%となっており、革新派は福島30%、常三島24%、新町17%となり、工業地で革新支持層が、商業地で保守支持層が多くなっている。次にこんどの選挙で支持する政党としては、常三島地区では保守26%、革新16%、未決定が58%もあり、新町地区では保守36%、革新12%、未決定52%、福島地区では保守27%、革新21%、未決定52%となっており、平均すると保守30%、革新16%、未決定54%となる。このうち未決定54%は一応浮動票と見られ、住宅地区の常三島の58%、福島と新町の52%の数字は、市部に浮動票の多いことを明かに物語っている。(5)なお候補決定の時期について一寸ふれてみると、立候補前に決定というのが、保守系地盤、地盤の強さと事前運動の行届く新町に最も多く、常三島、福島の順となっている。立候補後に決定というのが、福島に最も多く、男81%、女71%となっており、政党、政策、人物をにらみ合せおもむろに決定するものが多い。次いで常三島、新町の順となっている。さらに投票前、投票所で決定するというのは浮動票を意味し、常三島で最も多く、組織票革新票の多い福島地区では一番少くなっている。(6)棄権したことがないというのが59.4%で、よく棄権した、またはたまに棄権したというのが35%、残りは忘れた又は不明というものである。棄権の理由は適当な候補者がいないというものも含めて「その他」が38.3%で最も多い。男性の30.4%は「職場の都合」を、女性の26.2%は「家事の都合」を理由としており、「病気傷害」も男女を通じて16.8%あり、9.4%は「無関心」と答えている(20図)。市部は毎度の選挙で棄権率が高いといわれるが、「無関心」「その他不明の理由」にもとづくものが約半数に近い48%にも達するというのは市民の政治関心の低調を示すものであろう。

 最後に(7)政治意識の稀薄を示すものとして、公明選拳運動の効果についての質間に対し、「役に立つ」と答えた者が僅か16%、「少しは役に立つ」と消極的に認めているものが33%で、大体半数が公明選挙をともかく有効と認めている。そして公明選挙運動は無意味だというのは農・山・漁村でも28%あったが、市部で23%となっており、「不明」「分らぬ」には公明選挙運動の効果を疑う意味が含まれているので、事実は40%前後の人たちが公明選拳運動に否定的であるわけである。なお地区別でみると、「無意味だ」というのは福島で多く、「役に立つ」というのは新町に多い。(8)労働組合運動の判断についてもまた同じことがいえるであろう。「よい」として支持すものサラリーマンの多い常三島の住宅地区で45%、福島の工業地区で40%あるが、新町の保守的商業地区では18%の低率である。「わるい」というのは新町地区で最も多く、51%は労働者の権利を否定しており、29%は理由はともかくとしてよくないと答えている。なお反対の理由としては「大衆に迷惑をかける」という感情的な声が圧倒的に多かった。

(三)

 以上概略ながら農・山・漁村及び徳島市部の商業地区、工業地区、住宅地区の三地区の実態分柝を試みたわけであるが、それら調査の成果を拠点としつつ、最近の毎日その他の新聞記事等を参照しつゝ全県的なひろがりにおいて県民の政治意識の二三のあり方について結論的に附加しておきたい。(1)投票率は全国平均よりやや低い。地元に候補があれば投票率がよいといわれるが、必ずしもそうでなく、岡田勢一候補の出身地の麻植郡の平均投票率は6割6分6厘にすぎなかった。然るに候補のいない海部郡は郡市別ではいつも第三位までの好成績を保ち、平均7割2分の高率をあげている。これは県南人の南方型性格が「まるい」とも考えられるが、県南には漁村が多く、縦のつながりの強い封建意識や従属関係が強いからだとも考えられぬことはない。漁民の多い鳴門、小松島市が平均7割線を示しているのもこうした事情によるとも考えられる。徳島市の平均5割8分4厘は最低で、名東郡の6割4分4厘はこれに次いでいる。名西郡は有力候補の地盤に拘らず6割6分9厘である。板野・名西・麻植・阿波・美馬・三好の県北地方のいわゆる「阿波の北方」の吉野川流域の各郡と勝浦郡とは平均6割5分以上7割未満の率で、投票率の点では県南地方と徳島市との中間的性格を示している。投票行動における南方・北方型のこのような地域的性格は注目に値する現象である。(2)一昨年から昨年にかけての選挙の実態調査によると、棄権の理由として、「適当な候補者がないから」とか、「無関心のため」とか、婦人では「家事の都合で」というのが高い率を示しているが、僅かの時聞の家事のやりくりができぬとも考えられぬし、婦人の政治に対する不誠実、無自覚、真剣のなさが痛感せられる。本県における男女の投票率では常に男子が1割以上高く、24年1月選拳では男子が2割も高かった。男子は27年10月が7割9分6厘で最高、22年4月が7割6厘で最低であったが、7割を割ったことはない。ところが女子は最高が27年10月の6割8分4厘、最低が24年1月の5割3分5厘で7割に達したことは一度もない。このため有権者数は女子が多いが、投票数は男子がいつも多いという結果になっている。現在、婦人票が男子票を、約3万票も凌いでいるが、婦人の棄権率が高いことと、夫とか男性中心の意見に追従することの多いこと、自覚と公明な自主的投票の少いことなど照し合せて、本県における今後の婦人教育、政治教育の必要性が痛感せられる。

 (3)前記の実態調査によれば、投票に際し党よりも人物の比量が高く買われ、さらに「地元だから」「町内だから」という地縁票が本県ではかなり多い。もちろん選挙民の地域的性格、南方型と北方型の差もあろうが、これまでの選挙では那賀・美馬・三好の三郡は半数以上を地元候補に集めている。今回の徳島市の再選挙でも地元市議候補に圧倒的に票が集っている。三木武夫氏の板野郡は地元候補支持率が必ずしも高いというわけでなく、やはり候補者の人柄、有権者の地域的性格、選挙民の自覚というものが左右する。徳島市になると市部の特色を発揮して浮動票が多く、前近代的な臭いのする候補に対する支持率はさらに低くなっている。(4)浮動票については市部の実態調査に関連して、常三島で58%、福島と新町で52%と推定されたが、徳島市のその他の地区でも大体50%前後の浮動票が推定される。だからどの候補者も徳島市の票読みに苦しみ、徳島市を天王山とみなしている。小松島市・鳴門市・徳島市の周辺にも相当に選挙民の浮動層大衆がうごめいている気配が感じられる。「選挙は水もの」とよくいわれる。候補者は「浮動票のいたずら」に気を配る。いわゆる「信用のおけない票」が浮動票にあたる場合が多い。今度の総選挙でも広瀬候補は実によく浮動票をかき集めて当選したといわれる。政治学辞典は浮動票をこう説明している。「主体的な浮動層と客体的な浮動層とがある。前者は直接に政党を指導し、政権を担当するかわりに政治指導を職業政治家にゆだね、その政党を監視し、時宜に応じて選択するという浮動性をもつ。特定の政党に持続的支持を与えながらも、その政党に対する不満と批判の表明のため、ときとして棄権するということも考えられる。後者は政党を選択する主体でなく、政党によって操作され、投票の瞬間だけの一時的支持者となる。政策の合理的な説得でなく、非合理的な宣伝が浮動層を獲得する手段となる。即ち政治的に無関心で無定見な選挙民大衆をさす場合が多い」と。要するに浮動票となるグループは「政治的関心のある者」と「政治的に無関心の者」の二つに分けられるというのである。このような浮動票は都市に見られる現象で、政治的知識はあるが、政治的意識がこれに伴わないところに起きるもので、インテリー、ホワイトカラー族などに多く、「文芸春秋」の読者層に多いのでないかともいわれているが、徳島市の常三島界隈・小松島・鳴門市や徳島市周辺にもこの浮動票層がひしめいているともみられる。

 (5)保守優勢ながら革新が伸びてきているというのが本県の政治情勢で、今回の革新二代議士の当選がこれを物語っている。いまそれを地域的観点を加味してみると、27年10月から3回の選挙で革新の得票率は平均17.3%であるが、この平均を上廻る地区は徳島・小松島・鳴門の三市と勝浦・名東・名西・那賀の徳島市周辺の四郡である。海部郡と県北西部の各郡はその平均を下廻っている。革新系の最も強いのは小松島市で過去3回の選挙の平均が24.1%で、前回は31.7%、今回はまた躍進し保守を抜きかけている。そのように革新派は徳島市の周辺にその支持率が高いが、それはそれら周辺から徳島市へ働きに出ている組織労働者や半組織労働者が多いことを物語っている。しかし県南と吉野川流域の北西部は依然として保守色が濃く、とくに山間地帯は保守意識が極めて強く平均10%にも達していない。いま参考までに31年7月の参院選での革新系得票率を郡市別に算出すると、県平均37%を上廻っているのは徳島・鳴門・小松島・勝浦・名東の他に阿波・麻植が加っており、小松島では47.5%を示しているが、今回の衆院選でもそれに肉迫する威勢を示している。保守派が金城湯池とする美馬・三好・海部でも、今回の総選挙で表れたように、しわしわと革新系が票を増してきているのである。(6)これら革新系の地盤は党の組織と協力団体の労働組合等で、党の組織としては県連のもとに郡市町村支部と20町村に準備会があり、本部へ登録している正式党員は約500人、党友3,200人と称している。これをバックアップする労組の陣営は左派につながる総評系の県労評の翼下に国鉄・全逓・全専売・全食糧・全建労・県教組・県職などの官公労があり、これとならんで那賀木産など民間中小企業労組などを中心とする徳中労、鳴板労連、中央労連などが結集する地方労協、そして漁業労組連合会があり、総勢は37組合、その組合員4万人と称されている。また外部の協力団体には徳島造船労組など8団体2000人が含まれる県民間産業労連もひかえている。さらに右派とつながる全労会議系の県労会議の翼下には東邦レーヨン、東洋紡などの全繊同盟県支部を中心に6組合、6500人を擁している。この中で県労評の国鉄県支部は右派社会党の本陣ともいわれている。実際、これら左右両派の勢力はソロバンの上では5万人ということになる。それに未組織労働者約2万人、農民・漁民・インテリ層・革新系フアンの票を加えれば、まず県下全体で10万票は絶対に堅いといわれている。それのみか組合員の家族や浮動票を加えると20万票も夢ではなく、楽に三人の代議士も送り出せよう。だが皮算用通りに組織票が固まっておれば問題はないが、これもハタから見るほどでなくて、案外頼りない面もあると慨嘆する者もいる。こうした組織票の弱さは、東京や京阪神の如き近代大工場に恵まれず、半労半農の未成熟、未組織の労働大衆がまだまだ相当数いるという特別な事情も手伝っている。国鉄や全電通などガッチリ票が固るが、県職や県教組など固まらないことで定評がある。しかもこれが県知事・市長・県議選以下の小規模の小選挙になると、組織票はグンと弱るのである。なおまた義理と人情、利慾と打算がからまって、保守陣営に走る組合員もないことはないということをきくのである。



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