阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第22号
鮎喰川水系の水生昆虫

生物学班 神野明・長池稔・徳山豊

はじめに
 筆者らは、今回の阿波学会による神山町総合学術調査に生物班の一員として参加し、この地域内にある河川の水生昆虫の調査にあたった。
 郡内を流れる主流河川は、鮎喰川で、他に多くの支流を含む。
 短い調査期間で、充分な調査といえないが、結果を報告する。
 

調査地点と方法
 調査地点は、第1図に示すとおりである。

鮎喰川は神山町奥屋敷に端を発し、吉野川に流れる全長43kmの河川である。調査は、奥屋敷から、広野の間で行なった。その間に、12ケ所(うち1ケ所は支流)で行なった。これらの各地点のおもに瀬について50cm×50cmのコドラードを置き、同時に水温、気温を測り、コドラード内の昆虫をすべて採集した。
 おもな調査地点の様相を述べると、奥屋敷下(st.1)は、源流地点で、谷がV字型となり、まわりは山地である。近くには、アメゴの養漁が行なわれている。殿宮(st.2)、入手(st.3)は山地溪流で河巾もやや狭く、附近は山地である。川又(st.4)は、神通谷川との合流点で、近くに民家が多く民家からの汚水の流入が見られ、ゴミが多く捨てられている。稲原(st.5)は、中間流で、近くに製材所や民家、水田が見える。寄井(st.6)大埜地(st.7)は中間流だが、平地流に近い。また、寄井は支流との合流点で安定した河床状態で極相を示す。本名(st.8)、本小野(st.9)は平地流で、民家.水田.果樹園が見られる。長瀬(st.10)広野(st.11)は、平地流で川巾も広く、民家.果樹閲が多い。また、調査期間中、長瀬において大量のウグイ、オイカワの魚類が多く死んでいたのは、農薬のためと思われる。川又で合流している支流、神通谷川にある中津(st.12)は山地である。やや上流で工事中のため、濁流となっている。


 調査地点を総合的にみると、殿宮から川又にかけて、昨年の台風の影響で、側岸の土砂が流入、堆積し、河床の様相が一変している。川又から今井までは、採集不能であった。

 

調査結果と考察
 調査地点の環境要因は第1表に示したとおりである。水温は19.5℃から26.0℃であった。


 全地点を通じて採集された昆虫類は、37種類であった。目別に表わしてみると次のようになった。
 表に見るとおり、カゲロウ目がもつとも多くの種類を占め、トビケラがこれに次いでいる。カゲロウ、トビケラが全体の70%を占める。
 地点別の種類は、大埜地(st.7)において最も少く19種類、奥屋敷において最も少く8種類である。
 個体類について見ると、地点によってかなり差がある。土砂の流入が多く見られる殿宮、入手では個体数が少く、民家からの汚水の流入が見られる川又付近では、個体数が少い。特に、川又では、土砂の種類が多大であり、それまでの河床と全く異った様相に一変しており、それによる昆虫類への影響が大きいと思われる。

 
寄井、大埜地、本小野では、ウルマ−シマトビケラの個体数が非常に多く、その地点では、河床状態が安定していると考えられる。
 全地点に見られた種としては、ヒゲナガカワトビケラ、ウルマ−シストビケラの2種、多く見られた種として、マダラカゲロウ属の一種、エルモンヒラタカゲロウ、シロハラコカゲロウ、があげられる。コガタシマトビケラが寄井から見られる。これは、その地点から、河川型が山地流から中間流へ移行したことをうらづけるといえよう。双翅目は上流部に見られず、中間流から平地流において見られる。

最後に本調査の結果をまとめてみると、中間けい流においては比較的河床が安定していますが、上流において種類数、個体数ともに少なく昨年度の風水害の影響で河床が充分に回復していないと、考えられます。
そのため全体についても、勝浦川と比較して種類数が9種少なくなっています。河川で水生昆虫をえさとする魚類が多く生活できるように、なるためにも今後より早く河床の回復を願いたいものです。そのためには、今後荒廃をまねく原因となる森林の乱伐や河床の採石をとることのないよう充分注意していく必要があると思われる。
〈参考文献 水生昆虫学〉
勝浦川の水生昆虫   阿波学会 勝浦川1975
玉川町奥地部自然科学調査 1974
  第4報
 昆虫:II蒼社川水系上流部の水生昆虫
   桑田一男
   (新田高等学校)


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