阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第22号
神山町南野間周辺の岩石 “神山五色”も含めて

地学班 剣山団研グループ
     岩崎正夫・小川■文・加治敦次
     塩田次男

1まえがき
 神山町を構成する岩層は、古生代後期(4億年前〜2.2億年前)の本州地向斜の海に形成された岩層だとされています。
 このうち、みかぶ断層以北の地域は変成作用をうけて結晶片岩になっていて三波川帯と呼ばれています。また、みかぶ断層以南の地域は弱い変成作用をうけていてみかぶ緑色岩類と呼ばれる地向斜の海に活動した水中溶岩や貫入岩の緑色岩化した地域と、秩父帯と呼ばれる地向斜の海に堆積した泥岩・砂岩・チャート・石灰岩および凝灰岩・貫入岩の緑色岩化した岩層の地域に分れます。(図1)。


 この報告は,神山町寄井の南の南野間付近で、秩父帯の岩層とみかぶ帯の緑色岩類が接触していて、この周辺で、緑色岩中の残存鉱物(変成作用による変質をまぬがれて残っている鉱物)を調べることによって、地向斜期の火山活動のもととなったマグマの性格を追求したものです。

 

2 南野間周辺の緑色岩中の鉱物
 神山町に分布するマグマ起源の岩石は、凝灰岩・溶岩・貫入岩などの変質した緑色岩です。
 一般に、地向斜に活動したマグマは玄武岩質です。ところで、玄武岩にはソレアイト質玄武岩とアルカリかんらん石玄武岩の2つの系列が区別され、それらの分布や鉱物組合せについては、世界中の変質していない火成岩について、よく調べられています。
 ところが、地向斜の緑色岩は、前述したように、変質していて多くの鉱物がこわされているので、その性格がよくわからなかったわけです。
 しかし、緑色岩中の残存鉱物を丹念に探せば、緑色岩のマグマの系列を明らかにすることができる筈です。
 このような観点から、著者らがすでに発表したもの(1)(2)(3)に今回の調査によって得た新しい資料も加えて列記してみます。
(1)転移したピジオン輝石
 ピジオン輝石はソレアイト質玄武岩の岩系に特徴的な鉱物となっていますが、この鉱物がマグマの中で結晶したのち、ゆっくり冷却した場合(深成岩または貫入岩の場合)、ピジオン輝石は不安定になって、つぎの反応をおこして転移します。
 ピジオン輝石→斜方輝石+単斜輝石
 生成した斜方輝石と単斜輝石は葉片状に交互にラメラをなすわけで、その面が揮石のC軸と斜交するため双晶を起すと矢羽根の模様をつくるのです。それが、転移ピジオン輝石の見分けやすい目印になります。
 神山町大久保の南の上角谷川の奥に、神領ゆりで有名な谷がありますが、この谷全体がはんれい岩の大きな岩体です。このはんれい岩の薄片から図2−(a)に示す矢羽根状のラメラをもった鉱物が発見されました。白い部分は単斜輝石で、これは変質せずに残っていますが、黒い部分(偏光顕微鏡で消光位でみたものであるから普通の顕微鏡では無色透明である)はバスタイトという鉱物に変っていますが、矢羽根の構造からこれは転移ピジオン輝石に間違いありません。すなわち、転移によって生じたもう一つの輝石である斜方輝石は変成作用のときバスタイトに変ってしまったのです。


(2)石英−長石の連晶
 転移したピジオン輝石の発見によって、上記の岩体がソレアイト質であることがはっきりしましたが、さらにソレアイト質のものは若干 SiO2 の量が多いので、結晶がつくられていくと最終的に石英が晶出し、石英−長石の連晶が見られます。これもこの岩体の中から発見され、図2−(b)に示してあります。

(3)チタン輝石
 南野間の西の沢および林道ぞいに、古生層中に、厚さ10〜30mの緑色岩がはさまれていて、その岩石中に図3−(b)ににす輝石が含まれています。この輝石は、普通の輝石に比べると桃色がきつく、とくに桃色の濃い部分が一つの結晶の中で砂時計の形で分布しているので砂時計構造と呼ばれ、チタンを多く含む輝石の特徴となっています。この岩石では、桃色の濃い部分で、 TiO2 が4〜5%含まれています。このように、 TiO2 の多い輝石は日本ではじめてで、外国ではアルカリの多い玄武岩質マグマ(ソレアイト型がアルカリが少いので対称的な型です)から生じた岩石に出現します。


(4)チタンの多い黒雲母
 前述のチタン輝石を含む岩体に含まれているもので、新鮮な割目でルーぺで観察すると赤味がかった小豆色の雲母光沢が美しい。顕微鏡でスケッチしたものを図3−(c)に示してありますが、薄片ではチタンの影響で普通の黒雲母に比べて極端に赤味がかっています。 TiO2 が9%も含まれているのですが、これもチタン輝石と同様にアルカリ岩系にでる鉱物です。
(5)カリ長石
 長石も種類が多いですが、カリウムを多く含むものを総称してカリ長石と呼びます。南野間の西方の高根山の稜線へはいあがる沢にカリ長石を含む緑色岩があって、林道が横断するので、簡単に採集できます。図3−(a)スケッチしたものは、カリ長石の一種正長石です。いくつにも分離しているのは、変成作用のときの応力で切断されたものです。このほか、微斜長石もあります。カリ長石はアルカリ岩系に多い鉱物です。
(6)雲母を含むかんらん岩
 変成作用を受けているで、かんらん石は蛇紋石に変化しているので、この岩石は蛇紋岩というべきです。神山町高根に産します。図4に示すように、蛇紋石化したかんらん石・チタン輝石・褐色角閃石・滋鉄鉱・黒雲母の組合せの岩石ですが、かんらん岩に黒雲母が少量とはいえ含まれるのは、アルカリ岩系の岩石に多いのです。

 以上の如く、転移ピジオン輝石からソレアイト型マグマの活動を、チタン輝石・チタン黒雲母・カリ長石・雲母を含むかんらん岩からアルカリ岩系マグマの活動を推定することができます。
 従来、地向斜の緑色岩をもたらしたマグマの性格は、変質がはげしく、調べることが困難でしたが、本州地向斜では、神山町南野間付近で、2種類のマグマの活動が認められたわけです。
 今後は、これらのマグマが地かく運動とどのような関係で活動したか追求してゆくことになるでしょう。

 

3 神山五色

 名石として珍重されている神山五色は赤色の基質のなかに淡い緑・黄・白などの角ばったれきをはさむものです。この角れきは石灰岩の岩片であって、この岩石の名称は凝灰角れき岩といいます。神山五色の露頭は南野間の上の林道の少しはずれたところにあります 。図5−(a)は神山五色を亀田ノ丸の方に追跡したところの凝灰角れき岩をスケッチしたものです。この付近になると石灰岩の角れきは姿を消して、その代りにはんれい岩や輝緑岩や玄武岩が変質した緑色岩が含まれています。はんれい岩は前述したソレアイト質はんれい岩とは性格を異にするようで、リーべック角閃石というNaを含んだ角閃石を含んでいます。すなわち、どちらかというとアルカリ岩系列の火成岩と考えたいような性格をもっています。ところで基質の部分は薄片を顕微鏡で観察すると放散虫(ラジオラリア)が見つかります。(図5−(b)。


 以上のことから、神山五色という名石は、いまから約3億年前(くわしくは2.5億年前と考えられています)の地向斜の海でおこった海底火山の噴火にともなって、火山灰と噴火によって生じた岩片が一緒に堆積してできた凝灰角れき岩であって、当時海面近くに放散虫が大量に発生していたことが推定されます。
 最後に、今回の調査に際して、いろいろの便宜をはかっていただいた神山町に対して深く謝意を表します。

 文  献
(1)剣山研究グループ(1963):四国東部結晶片岩地域の地質。地球科学、69号、16〜19.
(2)NaRayama, I. et al(1973):Finding of inverted pigeonite from the gabbro in the Mikabu zone at kamiyama, eastern Shikoku, Japan. Mem. Fac. Sci., kyoto Uni., Ser. B, Vol. 40, No.1.
(3)加治敦次:小川■文・塩田次男(1973):徳島県神山町南野間の古生層中に産出する緑色岩類・徳島大学学芸紀要(自然科学)第24巻.


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