阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第22号
神山町の地域的分折の一考察

地理学班 新居博・四宮武・岸本豊・岩田瑩子

《目 次》
 1. はしがき
 2. 神山町の概観
 3. 神山町の商業圏
 4. 神山町の通学圏
 5. 神山町の通婚圏
 6. 神山町の地域住民の意識
 7. むすび

1 はしがき
 過疎化の進んでいる山懐の町「神山町」を地理学上より分析するため、その内部における地域的相違を商業圏・通学圏・通婚圏・住民意識等より調査を行なった。過疎問題については昨年の勝浦川中上流の調査で報告されているが,徳島県では50市町村のうち28町村が過疎地域に指定(指定条件は5年間の人口減少率が10%以上で,3年間の平均財政力指数0.4末満の町村となっている)されており,神山町もその中に含まれている。今回の調査では直接過疎に悩む地域住民にスポットをあてるのではなく,神山町内のそれぞれの交通位置(Situation)の違いによる地域的特性を分析考察してみた。すなわち,鮎喰川中上流に位置する神山町は下流の徳島市とあらゆる点で結びついているが,その内部における地域的特徴は,例えば,人口世帯数の減少傾向という点からみると(第1図),上流の上分地域は挙家離村傾向が強く,中流の神領地域はその傾向が弱く,下流の阿野地域ではまたやや強くなる。


 性別・年令別人口構成(第2図)でも,上分地域は生産年令人口がきわめて少い顕著なひょうたん型の人口ピラミットを示すが,神領地域ではその傾向はやや弱く,広野地域で,またやや強まっている。
 以上のように神山町内部において少しではあるが,位置(Situation)の相違によるそれぞれの地域の特徴がみられるように思われる。

 

2 神山町の概観
 昭和30年3月31日,名西山分5ケ村(下分上山村・上分上山村・神領村・鬼籠野村・阿野村)の合併により発足した神山町は,四国山脈の東部に位置し,全面積の約83%が山地である。東は徳島市に接し,西は川井峠で木屋平に隣接する。南は雲早山など1000m前後の稜線で連なり,勝浦・那賀・名東郡との分水嶺をなし,雲早トンネルで木沢村に,旭丸峠で上勝町に,府能トンネルで佐那河内村に通じる。北は東宮山・焼山寺山など山々が美馬・麻植郡と境界をなし,梨の峠を通じて鴨島町に接し,東北部は童学寺トンネルで石井町と接する。中央を蜘行(meander)する鮎喰川はその源を上分奥屋敷に発し延長50qで吉野川に達している。
 地域別にみると,上分地域は鮎喰川の最上流に位置し,高度も200m以上で川又地区を中心に北谷・中谷・南谷地区(但しこの区分は小中学校で一般に用いている地域区分。以下各地域の区分も同じ。第(3)図参照)に分かれる。西は川井峠(780m)で美馬郡木屋平村と通じ,また北から南へ山間を国道山川−海南線が開通する予定になっている。この地域は過去9年間(S.40〜S.49)に−15%(世帯数)・−32%(人口)の減少を示し,挙家離村傾向が大きい。


 下分地域は鮎喰川の谷底平野(valley plain)が比較的広くなり,標高は150m以上で県道沿いに中組・下組地区の集落が発達しており,離村傾向も上分地域ほどではないが喜来谷・南谷地区の山間傾斜地ではやはりその傾向が強い。例えば喜来谷地区の西大戸・水舟・田ノ上などゴースト化しているところもみられる。全体として下分地域の人口減少傾向は,過去9年間(S.40〜S.49)に−9%(世帯数)・−23%(人口)の減少である。
 左右内地域は,鮎喰川の支流左右内谷流域で焼山寺をひかえた地域であり,玉谷 若松・藤蔭の3地区に分かれ,離村傾向も強く過去9年間(S.40〜S.49)に−10%(世帯)・−37%(人口)の減少を示している。
 神領地域は神山町の中心部に位置し,標高100m以上で町役場・高校もあり上分・下分・左右内・鬼籠野の一部を勢力範囲とする広域商圏を形成している。また地形的に鮎喰川の谷底平野(valley plain)が盆地状に広く開け水田も多い。寄井は交易的機能をもつ小谷口集落(valley mouth settllement)のような位置でないかと思われ,本流谷・左右内谷等の山間地と神領の盆地状谷底平野との交易の位置となったように思われる。また鬼籠野や阿川へもその影響は少なからず及んでいる。谷底平野の標高は120mぐらいで,中津・上角・野間・北地区の中心部を構成している。また小野地区は鮎喰川の下流阿川・広野地域への出口にあたり,谷は横谷(transverse valley)となり深く,穿入蛇行(incised meanber)もみられるようになる。人口減少傾向は,過去5年間(S.40〜S.45)で−3.5%(世帯)・−14%(人口),また過去9年間(S.40〜S.49)で+1.1%(世帯)・−18%(人口)で,世帯数では最近増加傾向を示している。
 鬼籠野地域は神山町南東部山地に位置し,千歳・中央地区は鮎喰川支流の小谷底平野部に位置し県道南岸線が経由しこの地域の中心部である。地域北東部の紅葉地区は大桜トンネル(標高280m)を通り徳島市に通じ,南東部の南谷地区は府能トンネル(標高300m)で名東郡へ通じている。しかし鬼籠野は全体として,神領の通学圏・商圏に含まれている,(但し商圏は広野商圏の勢力が神領商圏の勢力より強く及ぶ)人口減少傾向は過去9年間(S.40〜S.49)で−6%(世帯)・−21%(人口)である。
 最後に阿川・広野地域であるが,阿川地域は標高70m以上で鮎喰川の神山町における下流に位置するが,上流の下分神領地域が比較的広い谷底平野が形成され縦谷(longitudinal valley)をなすのに比し,ここでは再び谷は深く,横谷(transverse valley)をなし穿入蛇行(incised meander)がみられ,鮎喰川で結ばれているとはいえ交通困難の場所である。そのため広野から鬼籠野経由で,この横谷をさけて神領に入る交通路が主流として使われていた。だから阿川地域は下流に位置するが上流の上分地域と類似する特性を示しているようである。人口減少傾向は過去9年間(S.40〜S.49)で−7.5%(世帯)・−26%(人口)である。また通学圏・商圏とも一部神領の勢力圏に含まれる。次に広野地域は標高40m以上で,神山町の最下流部に位置し,徳島市の通学圏に含まれ,またその商圏にも強く引かれる。また阿川地域・鬼籠野地域に及ぶ広野商圏は上流の神領商圏と競合する関係にあるとも言えるであろう。鮎喰川広野橋をはさんで広野(右岸)と五反地(左岸)が一種の対向集落(trvin settlements)をなし,ここを中心に県道徳島−剣山線・石井−神山線の南岸路と北岸路の結節点をなし,それぞれ鬼籠野・阿川を経由して神領へ通じている。人口減少傾向は過去9年間(S.40〜S.49)で−2.6%(世帯)・−18.6%(人口)と神領地域に次いで少ない数字を示している。

 

3 神山町の商業圏
 神山町の小・中学校で一般的に用いているから地域区分による33の各地区から8を任意に選び(阿川地域は4世帯),アンケート調査を行なった。
 日用品(菓子・酒など),中級品(金物・電気器貝など),高級品(呉服・反物など)についてそれぞれどこで買物をするか選択肢から選んでもらった。なお,1世帯のみしか該当しない買物地域は,特殊例もあるので除外して考えた。(第4図参照)


 上分商業圏
 上分地域のみである。中心集落のある川又とその近隣の南谷には,中上級品で徳島の影響がうかがわれる。徳島の影響は神山町33のほとんどの地区にうかがわれ,中谷,北谷のように徳島の影響が及んでいない例は,鮎喰川最上部のこの2地区を含め4地区だけである。
 下分商業圏
 下分地域のみである。旧下分村の左右内地域との関係は,まったく消滅している喜来谷には徳島の影響が及んでいないが,他は全て上級品に影響がうかがわれる。中心集落のある中組と平坦地の下組は特に影響が強い。また,下組は神領の影響がより強くうかがわれ,神領商業圏への傾斜が著しい。
 左右内商業圏
 左右内地域のみである。商業圏としての力は弱く,神領の影響がより強い。神領商業圏に包含されている状態である。徳島の影響は上級品で全域に,中心集落の玉谷では,中級品からうかがわれる。
 神領商業圏
 神領地域全域の外,下分地域の下組,左右地地域全域,鬼籠野地域の南谷,千歳,中組,阿川地域の南浦にまで及ぶ広域の商業圏を形成している。徳島の影響は上級品で神領地域全域に,中心集落のある野間,上角では中級品からうかがわれる。
 鬼籠野商業圏
 鬼籠野地域のみである。中級品で千歳,中央,紅葉は広野の影響がより強く,南谷,千歳,中央は次に神領の影響がうかがわれる。徳島の影響は上級品で全域に,中央では中級品から,徳島に近い紅葉では,下級品からうかがわれる。
 阿川商業圏
 阿川地域のみである。中級品では完全に広野の商業圏に入り,徳島の影響は上級品でより強く,中心集落のある中央では中級品からうかがわれる。しかし広石には徳島の影響が及んでいない。なお南浦では神領の影響が,広石では中級品で2番目に買物に行く所として鴨島の影響がうかがわれる。
 広野商業圏
 広野地域全域の外,阿川地域・鬼籠野地域全域にまで及ぶ広域の商業圏を形成している。徳島の影響は上級品で広野地域全域に,中心集落のある中央では中級品から,北では下級品から影響がうかがわれる。
 以上のことから神山町には,広域商業圏として神領商業圏,広野商業圏,徳島商業圏の3つがある。神領商業圏と広野商業圏は,阿川地域の南浦と鬼籠野地域の南谷,千歳,中央で競合している。競合状態は下流の広野の方により強く現われている。徳島商業圏は鮎喰川本支流の最上流部に当る上分地域の中谷,北谷,下分地域の喜来谷,阿川地域の広石,の4地区をのぞいて広域に浸透しており,下流部地域および各地域の中心集落のある地区ほど浸透力が強い。これは各地区の周辺地区が中心集落へ引かれるのに対し,中心集落が徳島へ引かれるという現象である。川の流れのよのに支流地域は本流地域へ,本流地域は下流地域へと引きつけられるのに似ておりこれを「下流指向型」といいたい。

 

4 神山町の通学圏
神山町内における児童,生徒がどのような通学圏を形成しているか。小学校から中学校へ,中学校から高校へと進級する場合,通学圏は地域によっていかなる変化を示すか。という観点から,神山町の小学校,7校の6年生195人(うち186人−回収率95.4%)中学校3校の3年生230人(うち217人−回収率94.3%)を対象にアンケート調査を実施した。
 小学校から中学校への進級によって,上分小は上分中へ,広野小は神山東中へ進級して通学圏の変化はほとんどみられない。ただ左右内小,下分小,鬼籠野小,阿川小,神領小は神山中へ統合されるので,神山中の通学圏はかなり拡大される。小学校時代は,徒歩通学が多かったのに比べて,自転車通学生が半数を占め,通学に無理な生徒のために寄宿舎の設備も整っている。神山中学校区の中で特に阿川地域の児童の63.2%が神山中ヘ,残り36.8%が神山東中へと進級し,他地域にはみられない小学校時代の通学圏の分解が行なわれていると考えられる。
 中学3年生が高校進学を希望する場合には,どのような通学圏を形成するか,アンケートの結果第1表を得た。進学希望率において,神領・鬼籠野,阿川,広野地域は90%を越えているのに,上流部の上分,左右内,下分地域では,75.6%,66.7%,87.5%とかなりの地域差がみられる。


 また,進学校の希望をみた場合,神領,下分,鬼籠野地域出身の神山中の生徒と神山東中の生徒は,50%以上が徳島市内の高校を希望している。市内を希望する理由として,実業高校を希望する生徒は,希望する課程が神山町内にないから。
また,普通科,総選校を希望する生徒は,神山町では文化的な面が少ない。両親,兄弟,先生に勧められた,とするのが多いようである。さらに,阿川,広野地域においてそれぞれ38.8%,40.9%の生徒が名西・鴨商を希望していて他地域の希望割合いに比べるとかなりの差がある。
 徳島市内や名西・鴨商への通学指向傾向は,進学希望率が高い中,下流地域で顕著である。通学方法から通学圏を見ると,広野地域では,自転車,バス通学が可能とする生徒は合せて79.6%となり,神領16.3%阿川26.3%鬼籠野29.4%下分5.8%など他地域の生徒と著しい差異がある。一方,高校進学と同時に下宿をする生徒は,広野地域では13.6%,他地域では60%を越えている。以上のことから,神山町内から高校進学をする場合の通学圏は,神山町の下流部,阿野地域のみが通学可能圏内であり,他の地域は,通学困難な地域であると考えられ,高校への通学圏も,商業圏,通婚圏と同様,神山町を2地区に地域区分すると,阿野地域の鮎喰川下流地域が特に,下流指向型の傾向を顕著に示しているといえる。

 

5 神山町の通婚圏
 通婚圏については,神山町の昭和7年から昭和25年の間の上分・下分・神領・阿野の4地域の婚姻届受付帳をもとに行なった。それで戦前の古い傾向しか出ないのだが,当時の町内の縁組による人口移動の地域的特色をみてみた。


 嫁入のために女子が移動する地域的範囲をみる地域的通婚圏の立場からみると,一般的には,山間地域は村内婚が多く,通婚圏は狭いとされ,山麓地域のそれは山間地域よりやや広く,また出婚圏は入婚圏より広く,通婚圏の拡大は平地へ向っているとされ,平野地域のそれは,さらに広くなるとされている。
 上分地域の特徴は川井峠で通じる木屋平との結びつきが強いことで,婚入のうち29%が木屋平からで3人に1人が婚入していることになる。また町内では最上流に位置するため下流域との関係になるが,この点では一般的傾向を示し婚入は少なく婚出が多く,特に隣接する下分との関係が強く婚入が29%を示し,婚出が31%を示し,また域内婚も29%の高率を示している。
 下分地域の特徴は,上分,神領との関係を特に強く示すことで,上分とは婚入が28%婚出が14%と上流・下流の関係をはっきり示すが,神領とは婚入16%,婚出17%で対等の関係を示している。域内婚は15%と少く特異な傾向である。
 神領地域の特徴は,上分・下分地域より一層徳島市との関係が強いことである。すなわち婚入13%,婚出26%で4人に1人は徳島市へ出ている。町内では下分との関係が最も強いが,上流,下流という関係はみられず全く対等な通婚を示している また下流の阿野とは婚入が少しであるが多いことを示しており,このことは商圏・通学圏に一致する傾向である。
 阿野地域の特徴はまず第1に町内婚の少ないことである。すなわち町内からの婚入25%婚出17%と少なく,上分・下分・神領はそれぞれ45%前後を示すのと大きく違っている。これは阿野地域が神山町の下流に位置するため下流指向という一般的傾向と合致する。第2に県内移動,すなわち他郡市との関係で,婚入が47%,婚出58%と下流平野へ通婚圏が拡大している点である。第3に徳島市との通婚関係が強いこと,梨の峠で通じる鴨島やまた美郷との通婚も多くみられることである。
 以上,神山町の通婚圏からみた地域の特徴は,ほぼ一般的傾向と一致するが,その中で特異な点が2つ考えられる。その1つは,下分と神領の関係で,この両地域は上流・下流という通婚関係を示さないこと。もう1つは上分・下分・神領が山間型通婚圏を示すのに対し,阿野は山麓型通婚圏を示すことである。

 

6 神山町の住民意識
 アンケート調査により,過疎に関連しての地域住民の意識にどのような地域的差異があるかをみてみた。
 小学校6年の児童に調査用紙の配布回収をお願いし,その父兄を対象に調査を実施し,187名の回答を得た。各小学校ごとの集計結果の概要は第3表の通りである。


 問1「現在のあなたの町は住みやすいと思いますか。」全体としては「普通」55.6%,「住みやすい」17.1%「住みにくい」27.3%であるが,地域的には,神領と広野に他と異なった特徴がみられる。すなわち,「住みやすい」が広野25.0%,神領22.2%と平均の17.1%を上回り,「住みにくい」の比率も共に15.0% 16.7%と,平均の27.3%より可成り低くなっている。
 問2,「あなたは事情が許せば町から出たいと思いますか,」全体的には,ほぼ6割が「出たくない」で,「出たい」は,2割弱であるが,地域的には阿川と上分に特徴が認められる。「出たい」比率が阿川35.0%,上分29.0%と平均の18.2%を上回り,「出たくない」の比率も,それぞれ,40.0%,41.9%と平均の58.8%より低くなっている。
 問3「あなたの生活をよくするため,町,県,国に何を要望しますか」については,「地元で働ける工場誘致」,「道路の整備」が各地域とも共通して多く……
わずかに神領,阿川で「医療,水道などの生活環境の整備」が多くなる程度で,顕著な地域的差異は認められない。
 問4「出稼ぎの有無」(昭和49年10月〜昭和50年9月までに家族中の出稼ぎ者)では,奥地ほど多いという傾向が可成り明瞭にでている。
 主として問1,問2の結果から,各地域の類型化を試みると次のごとくである。
(1)広野・神領地域
 「住みやすい」「出たくない」の比率がともに高い地域である。広野は鮎喰川中上流域に位置する神山町でも最下流にあり,過疎地域とはいうものの徳島市への通勤可能範囲であり,神領は鮎喰川上流に開けた谷底平野のほぼ中央にあり,町役場学校,商店など町の中心的機能をもつという地域的特性を反映したものと考えられる。過疎化の傾向のもっとも弱い地域ともいえよう。
(2)阿川・上分地域
 広野・神領地域と対照的に「住みにくい」「出たい」の比率がともに高い地域である。阿川は神山町では比較的鮎喰川下流に位置するが,支流域に当り,山がちで耕地が乏しく人口流出も激しい。また,上分は文字通り鮎喰川の最上流で,人口流出・挙家離村は町内最高で過疎化現象の最も顕著な地域である。「住みにくい」「出たい」の高率は,今後の過疎傾向の持続を予想させる。
(3)左右内,下分,鬼籠野地域
「住みにくい」の比率はかなり高いにもかかわらず,積極的に「出たい」という比率がそれほど高くない地域で,(1),(2),の中間的な傾向を示している。この地域は,すでにこれまでに過疎化が終っているとも考えられる。
 なお,中学3年生を対象にほぼ同様のアンケ−トを実施した。その集計結果を第4表に示した。その集計結果て,「住みやすい」の比率高く,「住みにくい」率が低い。また,生活経験の乏しいためか「住みにくい」と「出たい」の相関も低く,出たい理由はほとんど「適当な職場がない」である。地域的特性も父兄に比して明瞭でない。

 

7 むすび
 鮎喰川中上流域に位置する神山町の地域的分折について,商業圏,通学圏,通婚圏・住民意識などの点より,アンケート等を中心に調査したが,その要点をまとめると次のとおりである。
(1)商業圏については,神山町のほぼ全域が徳島商業圏に包含されており,町内においては2大広域商業圏ができている。神領商業圏は下分・神領・左右内・鬼籠野に,広野商業圏は阿川・広野・鬼籠野に影響力を持つ。
(2)神山町内で徳島市内高校への通学可能地域は阿野地域のみである。この点からも神山町は現在の交通路と交通千段では,徳島へ通学可能地域と不可能地域に2分される。
(3)通婚圏からみた神山町の地域的特色は,上分・下分・神領と阿野の間に比較的大きな断層を示すことである。前者は山間地的通婚圏を後者は山麓地的通婚圏を示している。また,下分と神領の通婚圏系は,上流・下流という関係に乏しく対等の関係を示している。追加するが,阿野と徳島の通婚圏系と上分と木屋平の通婚関係を比較すると,交通 地理学上は前者の方の結びつきは後者が強いのだが縁組による結びつきは後者が強いようである。この点木屋平と上分との歴史的つながりが感ぜられる。
(4)住民意識による地域的分折では,過疎化傾向のもっとも弱い広野・神領地域,過疎化の持続を予想させる阿川・上分地域,それに前2者の中間的傾向を示す下分・鬼寵野地域に分けられる。
 以上,神山町を地域的に分折すると地理学的に2つに区分することが出来ると思う。すなわち上分・下分・神領・鬼籠野の一部を含む鮎喰川上流縦谷地域(東西方向に延びる)と,阿川・広野・鬼籠野の一部を含む鮎喰川中流横谷地域(南北方向に延 びる)である。両地域にまたがる鬼籠野は神山町における重要なポイント(位置を将来なすように思える。
 最後にこの調査に あたってご協力いただきた神山町の住民課・教育委員会の皆様またアンケート調査でご協力いただくた町内学校当局ならびに地域のかたがたに厚く御礼申し上げます。

 参考文献
 (1)服部■二郎「草加市における商業機能の研究」地域研究第15号
 (2)山鹿 誠次「都市地理学」(1964)
 (3)合田 栄作「通婚圏の地理学的研究」
           ―縁組による人口移動の地域的研究 第13報―


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