阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第26号
池田町の河川における水生昆虫

生物学班 徳山豊・神野朗・長池稔

1.はじめに
 今回、池田町における総合学術調査に生物学班の一員として参加する機会を得、池田町の河川の水生昆虫の採集調査を実施した。水生昆虫は、近年河川の水質判定の指標生物として盛んに研究されている。筆者らは、特に各河川の水生昆虫相を明らかにすることを目的として調査にあたった。合わせて水生昆虫をはじめとする底生動物から調査地点付近の河川の状態について考察を試みたいと考えた。調査期間が短かく十分な結果といえないが、ここに報告する。

 

2.調査地点及び調査方法
 調査した河川は、池田町を流れるおもな河川である吉野川、馬路川、鮎苦谷川、野呂内谷、祖谷川、松尾川及びその支流、漆川、谷川、そして黒沢湿原にある池と源流性の小さい流れである。これらの水系に、図1に示すように12ケ所の調査地点を置き採集調査した。

各地点の様相を述べると、St.1は、祖谷口橋の下付近である。ここで、祖谷川は吉野川に合流する。水量もあり早瀬も各所に見られ、石礫底であるが、砂利や砂も多い。St.2は祖谷川の支流である松尾川を出合から約3.5km程上流に行った地点。山間を流れる渓流で清冽な水が流れ、河床も安定に見えた。

St.3は松尾川の支流の1つである。松尾川の上流部は深い谷となる。谷に流れこむこの支流は、水は清冽であるが、道路工事の土砂が河床を埋め、荒廃がひどい。採集は、人工の加わらない所を選んで行った。St.4は漆川谷川の梅ノ谷付近で、水深は30cm前後で平瀬の多い流れである。底の石礫にはソウ類が多く付着する。St.5は馬路川上流部の船戸付近の小さい流れである。小川に近い様相で水量も少ない。水は濁りが見られる。St.6は馬路川の下流で、この付近にくると水量も増え、各所に白波のたつ早瀬がみられる。

St.7は野呂内谷の最上流部で、源流性の流れである。水量は少ないが清冽で、落葉や落枝が底に沈んだ水たまりもみられる。St.8は山間の平野部を流れる平瀬の多い、水深の浅い渓流である。底の石面には、汚水菌の付着が多い。St.9は鮎苦谷川の下流部で水量は少なく、水深も浅い。早瀬は見られず、わずかに平瀬がある。谷の上から用水路が流れ落ち、小さなたまりをつくる。St.10は吉野川の池田ダムの下流域。水量は豊富で、早瀬も多く見られる。St.11は黒沢湿原のため池。St.12は同じく、黒沢湿原の東端にある木々の間を流れる源流性の細々とした流れである。底には、落葉や落枝が積っている。この源流性の流れは、先述の池から流れ出た水がとおる溝と合流し松尾川へ滝となって落下する。この源流と源流が流れこむ石礫底の流幅1m前後の流れがSt.12である。
 以上の各地点で、金網のザルを用いて河床の砂礫をすくいとり、石や礫に付着する水生昆虫をすべてとりだした。調査は、瀬・淵を問わず付近一帯をくまなく採集する定性調査を行った。各地点で、その地点の水生昆虫類がでつくしたと思われるまで採集し、採集した昆虫類は、ホルマリンで固定し、持ち帰った後、同定・整理した。

 

3.調査結果と考察
 調査地点における環境要因として、気温、水温を測定した結果を表1に示した。

採集された水生昆虫は表2に示すように、全体で8目83種が確認された。

水生昆虫以外の底生動物が7種採集された。目別にみると、カゲロウ目、トビケラ目で全体の46.7%を占めている。
 種類数の割に、個体数が少ないことに気づく。これは、比較的多く採集される毛翅目の造網型の昆虫が少ないことが原因と思われる。河床の安定した河川では、この種の昆虫は、はるかに多く採集される。50cm×50cmのコドラード内で、ウルマーシマトビケラが296個体採集された(1976年8月、園瀬川)記録もある。St.3、St.7はいずれもAa型の山地渓流であるが、むしろ源流に近い流れで、水量が乏しく河床が不安定なことがこの種の昆虫の少ない原因と思われる。この2地点では、ムカシトンボの幼虫が採集されていることからそれほど自然環境が悪くなっているとも思われない。
 各地点について考察するとSt.1では、種類数の割に個体数が少ない。1個体のみという種類が多く、何回も採集用のザルで石礫をすくい取るうちにやっと採集されたものである。この地点では、昆虫類は極めて少ない。河幅の割に、豪雨時の水量が多く激流となるため、河床がすっかり洗い流されてしまうためでないだろうか。St.2は比較的河床も安定にみえたが、種類数・個体数ともに他に比べると多いといえる。上流域に多いフタスジモンカゲロウがみられる。St.3は婬蝣目の昆虫が少なく、蜻蛉目の昆虫が多くみられる。蜉蝣目の中では、砂泥中にすむフタスジモンカゲロウが多く、全体に止水域を好む種類が多い。カクスイトビケラは、滝の流れる岩盤から採集した。St.4では、蜉蝣目の昆虫が少なく、汚濁に強いミズムシが採集されている。流速がなく、早瀬がみられないことが、蜉蝣目の少ない原因であろう。一般に、多くの蜉蝣目の昆虫は早瀬に多い。St.5,St.6は種類数も多く安定した流れといえよう。St.8では、比較的種類も多くみられるが、もっとも普通にみられるウルマーシマトビケラをはじめ毛翅目の昆虫が極めて少ない。河床も安定な状態で、蜉蝣目の昆虫も多いことからみて疑問である。ゲンジボタルの幼虫とその餌となるカワニナが多くみられることから、ゲンジボタルがかなり発生すると思われる。St.9は種類数、個体数ともに多く、ウルマーシマトビケラ、ヒゲナガカワトビケラも多いことから、河床は安定であろうと考えられる。St.10では、オオシマトビケラが多くみられ、この付近の優占種となっている。この種は今回調査した他の地点には全くみられない。現在まで日開谷川、宮川内谷川、伊予川の特定の場所だけで確認されている。吉野川には、広く分布することがわかっている。St.11では1973〜1974年に県自然保護協会が実態調査を行い、黒沢湿原の水生昆虫について桑田一男氏(愛媛県新田高校)が調査した。筆者も同行していたが、この池から大型のゲンゴロウをはじめ、平地では姿を消しつつあるガムシ、マツモムシ、ミズムシなどの昆虫が採集された。ゲンゴロウが8種、ガムシが4種採集されているが、今回は、ゲンゴロウ4種、ガムシ1種が採集された。調査期間も短かいため、昆虫数が減少したと断定できないが、採集される個体数は、明らかに少なかった。今回採集された種類は前回の3分の1である。止水性のフタバカゲロウの姿は確認できた。St.12では先の調査で採集されていない、シロハラコカゲロウ、フタバコカゲロウ、クロタニガワカゲロウが採集された。先に採集されているトビイロカゲロウは採集されなかった。蜻蛉類は先の調査では、8種採集されているが、今回はわずかに2種が採集されただけである。付近の環境はほとんど変化していないことから、調査期間が短いことが原因と思われる。機会をみてさらに調査したい。


 全地点の昆虫相をみると、毛翅目のチャバネヒゲナガカワトビケラが6地点でみられる。この種はあまり多く採集されないが、今回はよくみられた。チャバネヒゲナガカワトビケラはふつう下流域に多いといわれるが、上流域にも次第に増えているといわれる。(桑田一男)確かに、祖谷川、松尾川、野呂内谷、吉野川の最上流部を残して分布が広がりつつあると考えられる。ただ、St.9の地点にみられないのはどうしてであろうか。

チャバネヒゲナガトビケラが出現するのは、水質汚濁がある程度認められ始めたところだといわれる。(森下郁子著、『生物からみた日本の河川』中の記述)チャバネヒゲナガカワトビケラの分布と水質の変化との関係については、今後の調査課題である。

 

4.おわりに
 今回の調査で特に感じたのは、個体数が少ないことである。1個体のみ採集された種類がずい分と多い。夏季は昆虫が羽化するためもともと個体数は少ないといわれるが、付近一帯をくまなく、入念に調べた結果にしては、少ないと思われる。目に見えない水質の変化、河床の荒廃が、このような水生昆虫類に影響を及ぼしているのであろう。なお、今回は8目83種の水生昆虫を確認したが、町内を流れる水系のほんの一部の調査であり、なおこの上に多くの種類が生息すると予想される。調査した範囲内の水系は、まだ水生昆虫類の生息できる環境であるが、今後荒廃が進み、昆虫類の姿が消えることがないよう願いたい。

   参考文献
1)津田松苗 1962:水生昆虫学
2)桑田一男 1972:石手川水系における水生昆虫の生態
3)徳島県自然保護協会:調査報告第1号 黒沢湿原 7〜10
4)森下郁子 1978:生物からみた日本の河川
5)徳山 豊 1978:山城町の渓流における水生昆虫 郷土研究発表会紀要24 49〜58 阿波学会・徳島県立図書館


徳島県立図書館