阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第26号
池田町の薬用植物分布調査

生薬班

 村上光太郎・瀧下寿江・佐藤朱美・

 桜木美江・田渕陽子・河野英代

〈目的〉
 池田町は徳島県の西端部に位置し、東は三好・井川の両町に接し、北は阿讃山脈を境に香川県に、西は愛媛県と背面し、南は西祖谷山村・山城町に接している。町内には、標高1446mの中津山を始めとする起伏の激しい山岳群が連なり、これらの間を吉野川が流れている。池田町にどのような薬用植物が生えているかを調べ、更に52年山城町で使用あるいは知られている民間薬の調査を行なっているので、山城町に接している池田町に自生の植物を調べ、それと比べることによって、1 自生の植物がどれだけ薬用植物として使用あるいは知識として知られているか2 実際に使用している薬草と自生植物との関係はどうなっているかの二点を調査すること、また以前に薬用植物の分布調査を行なっている牟岐町や市場町と比べて池田町の薬用植物の分布はどのように違うかを調査することを目的とした。

 

〈調査方法〉
 3〜4名で1つの班をつくり各班が通ったコ―スの沿道に自生している薬用及び非薬用に関係なくすべての植物について、その植物名及び分布量を調査し記録した。調査の記載は、見わたして見ることができる範囲でその植物が1株のものは(±)、2〜5株のものは(+)、6〜10株のものは(++)、11株以上のものは(+++)として行なった。

 

〈調査日と調査地域〉
 昭和54年7月23日から7月25日の3日間調査した。調査地域は以下のようになっている。
 23日 A班 天神山途中まで
    B班 西山牧場途中まで
    C班 箸蔵寺
 24日 A班 雲辺寺山
    B班 中津山
    C班 山風呂周辺
 25日 A班 猪鼻峠
    B班 中蓮寺峰〜若狭峰
    C班 六地蔵越

 

〈整理方法〉
 調査されたそれぞれの植物について、「民間薬の実際知識、村上光太郎著」「和漢薬、赤松金芳著」「和漢薬用植物、刈米達夫・木村雄四郎共著」「薬用植物図説、村越三千男著」「総合薬用植物、木村重光編」「薬用植物大辞典、刈米達夫・木村康一監修」で薬用植物としての記載があるかどうかを調べた。

 

〈結果〉
 結果は表に示すようで、調査植物の総数は103科399種で、薬用植物の総数は83科189種であった。

 

〈考察〉
 池田町で見られたもので市場町・牟岐町のいずれでも見られた薬用植物は、アオツヅラフジ、アカネ、アカメガシワ、アキノタムラソウ、アセビ、イタドリ、イチヤクソウ、ウツボグサ、オオバコ、オトギリソウ、カタバミ、カキドウシ、カニクサ、カヤ、カラムシ、キカラスウリ、キランソウ、キンミズヒキ、クサギ、クズ、クロモジ、ゲンノショウコ、サルトリイバラ、サンショウ、スイカズラ、ダイコンソウ、タケニグサ、タラノキ、テイカカズラ、ナンテン、ネムノキ、ノイバラ、ハハコグサ、ヒオオギ、フキ、ヘクソカズラ、ヤマノイモの37種であった。これは全薬用植物の約20%になる。しかし私達の調査がコース別調査の形態をとっているため、当然池田町や市場町・牟岐町に生えていると思われるような植物でも調査期間中に見つけることができなかったものがかなり多く見られるため、調査された植物の種類の違いが直ちに地域の差になるとは思えない。しかし同じようにコース別調査を行なった市場町では薬用植物は89科242種、牟岐町では95科276種であったのに今回の池田町では83科189種しかなかったのは調査期間が短かかった事も一因にはあると思われるが、池田町の薬用植物の種類は他地域と比べて少ないと言わざるをえない。
 また市場町で見られたキク科のオケラ、セリ科のミシマサイコや牟岐町で見られたアカネ科のカギカズラ、マメ科のミヤマトベラのように地域を特徴できるような薬用植物は今回何も見つからなかった。
 ついで採集したコース別植物数に対する薬用植物の割合の平均は59.6%であったが、これは市場町の61.6%、牟岐町の59.5%とほぼ等しく薬用植物は全植物数の約60%であるとの今までの説を証明する結果となった。
 また、隣接する山城町で実際に使用あるいは知られている民間薬248種のうちで山城町に自生のものは77種であった。その差171種が一応今回の調査では池田町にはない植物ということになるのではあるが、その中には畑や花壇等で裁培あるいは植えている例えばアサガオ、アロエ、イチゴ、イチジク、ウリ、カボチャ、キク、キュウリ、ゴボウ、サツマイモ、サトイモ、シイタケ、ジャガイモ、スイカ、スイセン、ダイズ、ダイダイ、タマネギ、ナス、ニラ、ニンジン、ニンニク、ネギ、ミカン、ミツバなど31種が入っているため実際には140種が今回の調査では見ることができなかったことになり、薬用植物の使用の56%は他地域より購入あるいは他地域で採集したものにたよっていることになる。
 また今回の調査で見られた薬用植物のうちで山城町の民間薬として使用されておらず、または知識として知られていない植物も多く、アカザ、アキノタムラソウ、アマドコロ、アカショウマ、イチヤクソウ、イボタノキ、オトコエシ、カワラナデシコ、キカラスウリ、クロモジ、クララ、シキミ、シロバナエンレイソウ、シシウド、シロモジ、ツリガネニンジン、トリアシショウマ、ナンテン、ヌルデ、ネムノキ、ネズ、ヒヨドリジョウゴ、ヒオオギ、ヒキオコシ、ヘクソカズラ、ヤマアイ、リュウノウギクなど64種があった。これは薬用植物の34%にあたり、このことは多くの民間薬が枯死するにまかせていることになり、民間薬の啓蒙も必要であることを痛感した。

 

〈資料〉
 以下に調査日・調査班別に採集した薬用植物の科名・植物名(ラテン名)・分布量・薬用部位・主な薬効について記す。

資料


徳島県立図書館