阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第26号
池田町住民の栄養調査

医学班 

  森口覚・山本茂・力丸徹・山本孝史・

  粟田佳子・泰利津代・与喜多淳・

  海老沢秀道・幸下雅俊・黒田耕司・

  岸野泰雄

(はじめに)
 例年のごとく阿波学会綜合学術調査の一環として、農村医学班の検診(臨床検査を含む)と平行して、池田町住民の栄養調査を実施した。池田町は四国中央に位置する山岳地であるが、徳島、高知、愛媛、香川4県にまたがる交通の要町であるため、食品流通機構、経済性などの面で古くから発達している。その結果として、食習慣をはじめ嗜好とか栄養に関する知識が他の山岳地帯の住民と異っているとも考えられ、この食生活と健康状態との調査結果が注目された。
 〈調査対象と調査方法〉
1)調査対象
 徳島県三好郡池田町(箸蔵44名、白地47名、三縄46名、馬路56名)の農業従事者を中心として、男76名、女117名、合計193名に対して栄養調査を実施した。年令は男女とも20〜70才(男平均51.1才、女平均48.8才)であった。
2)調査期間
 昭和54年7月25日より7月28日までの4日間実施した。
3)調査項目および調査方法
a)食事調査
 調査日の数日前に各自に手渡した食事調査表に調査日前日の24時間中に摂取した食品の目安量を記入、持参するよう依頼した。調査日には調査員が個々に面接し、食品モデルを提示しながら各自が記入した食品目安量を再度確認した上でグラム数に換算した。これらの結果から栄養摂取量および食品群別摂取量、一日の栄養配分比、栄養比率などの算定には国民生活センター(東京都港区高輪3丁目13の22)での電子計算機を使用した。
b)アンケートによる食習慣、タイムスタディーの調査
 食習慣とタイムスタディーの用紙を同時に配布、記入依頼した。なお、不確実な点は前述の通り、面接時に調査員が再確認し、訂正補充した。
 〈調査結果〉
 調査対象の大部分は農林業従事者で、年令は40〜60才の中高年の者がほとんどであった。図1は昭和47年度国民栄養調査における食糧構成の成績と池田町住民の摂取した食糧構成を14の食品群別に分類して比較したものである。全国平均に比べ穀類、淡色野菜、海草類の摂取量が男、女とも高い反面、緑黄色野菜、牛乳および果実類は全国平均の半分あるいはそれ以下であった。山岳地であるのに海草類の摂取量が過去に調査してきた徳島県の他の地域と同様に高いことが注目され、これは徳島県の特産であるワカメをみそ汁に入れるといった食習慣の因子が影響していると思われる。その他牛乳類の摂取が低いのに対して乳製品の摂取が高いのは調査時期が夏季であったためヨーグルト、アイスクリームなどを摂取する機会が多かったものと思われる。また、昭和52年度の阿波学会学術調査における池田町近隣の同じく山岳地である山城町の結果と比べるとほとんど同じような傾向を示してはいるが、油脂類の摂取量が池田町において山城町におけるよりも高いことが注目された。図2は各種栄養素の摂取量を栄養所要量に対する比率でみたものである。調査期間が年間を通じて最も暑く、食欲の低下する時期であったことを念頭において考察してみると、蛋白質、ビタミンCは男、女とも所要量を満たしていたが、脂肪、ビタミンA、B1、B2については男、女とも所要量を充足しえなかった。また、動物性蛋白質は男、女とも所要量に近い値であったが、動物性脂肪は総脂肪摂取量の低さとあいまって低くなっていた。ビタミンAが低いのはおそらく人参、カボチャ、ほうれん草、ピーマンなどといった緑黄色野菜の低いためであろうと思われる。同じ山岳地である山城町の結果とくらべると、油脂類の摂取の増加がそのまま熱量に反映されておらず、熱量そのものは所要量より低くなっていた。山城町では熱量の面で糖質による依存度が高かったが、池田町では糖質カロリー比、脂肪カロリー比、および摂取たん白質がほぼ所要量に近い値をとっていることから、熱量の点ではバランスがとれていると思われる。
 次に各栄養素別の摂取量を年令別に比較した。
  但し30才未満については被検者が一人であるためこれを除いて結果を出した。熱量では各年令とも所要量に達しておらず、調査時期との関係を無視することはできない。蛋白質は60才以上を除いて所要量を満たしていた。動物性蛋白質についても同じ傾向がみられた。
  脂肪は一般に各年令とも低い値を示し、とくに高年令につれて摂取量が低くなっている。動物性脂肪についても同様の傾向がみられた。カルシウム、ビタミンA、B1、B2、については一部を除いて全年令を通して所要量より低くなっており、過去において調査した他の地域と同様の傾向を示した。鉄については男女の平均としては見かけ上所要量を充足しているが、実際は男性の鉄摂取量が多いためであり、女性だけをみるとやはり低い値を示しており、特に若い女性ほど低い値であったことは今後の栄養指導を行う際に注目しなければならない。鉄は獣鳥肉類の肝(レバー)に多く含まれているが、それらは臭みがあり、食欲を滅退させるが、料理に工夫をこらすか、あるいはその他の鉄を多く含む魚介類、たとえば、さば、かつお、煮干、しじみ、さくらえびなどを摂取する機会を増やすなどして鉄の摂取量を高める必要があろう。ビタミンCについては各年令層とも所要量以上の値を示した。糖質エネルギー比および脂肪エネルギー比については糖質エネルギー比の高い分だけ脂肪エネルギー比が低くなってはいるが、いずれも所要量に対して大きな差はみられなかった。
 つぎに14の食品群からみた年令別の摂取量を所要量と比較してみると、穀類、砂糖、菓子類、油脂類は男、女とも全般に低く、油脂類は年令とともに減少する傾向を示した。また魚介類、肉類、卵類、豆・大豆類といった蛋白質食品については魚介類では山岳地であるという地理的条件あるいは流通機構のためと思われるが全般に低い値を示した。肉類は年令が高くなるにつれて摂取量が低くなり、それに反し卵類は年令に関係なく全般にかなりの摂取量を示していた。このことから動物性蛋白質は魚介類よりも肉類とくに卵類により依存していることが推察される。また野菜類については淡色野菜が所要量を十分に満たしているのに対し、緑黄色野菜は30〜39才の男性を除いて摂取量が非常に低かった。この点も栄養指導の対象となるものと思われる。いも類については高年令になると摂取量が減少する傾向がみられた。果実類では各年令で非常に低い値を示した。おそらくトマト、スイカといった、ともすれと果実と思いがちな野菜の摂取で果物を食べていると誤って認識されているのではないかとも思われるが、ビタミンCの摂取量がかなり高いことから、果物類に関する摂取量の低さについてはビタミンCに関する限り取り上げて論ずる必要もないかも知れない。海草類、牛乳類については年令とともに摂取量が増えており、これまでの油脂類、肉類とは逆の傾向を示した。海草類の増加は朝食にごはん、みそ汁、漬物を食するといった海草類をとり扱った日本の伝統的な食習慣が反映されたものであると思われる。

 〈考察およびまとめ〉
 池田町における今回の調査は例年の如く7月25日より28日までの一年を通じて最も暑く、食欲の低下しやすい夏期に行ったものであるが一般に摂取熱量は所要量に比べ低くなっていた。この場合労作によって加味すベき熱量を考えていないので、明らかに摂取熱量は低いものと思われる。しかし糖質、脂肪、蛋白質の三大栄養素の総熱量に占める割合は同じ山岳地で、しかも近隣の山城町においては糖質による依存が高いのにくらべ、三者のバランスがうまくとれており、あとは不足の熱量を脂肪から補えばよいと考えられる。また、徳島県下の他の地域と同様にビタミンA、B1、B2などの不足が顕著であったが、ビタミンAについてはそれを多く含む緑黄色野菜の摂取を奨励する必要があり、ビタミンB1、B2については強化米の利用とかあるいは牛乳などの摂取量の増大をはかることが望まれよう。

 〈文献〉
1.国民栄養振興会:昭和50年改定日本人の栄養所要量と解説、第一出版、昭和50年
2.厚生省栄養課:昭和47年度国民栄養調査成績、第一出版、昭和52年
3.手塚朋道ら:脇町地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、第19号、57頁、昭和48年
4.高橋俊美ら:宍喰地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、第20号、73頁、昭和49年
5.中西晴美ら:上勝町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、第21号、103頁、昭和50年
6.上田伸男ら:神山町の栄養調査、郷土研究発表会記要、第22号、191頁、昭和51年
7.鈴木和彦ら:牟岐町住民の栄養調査、郷土研究発表会記要、第23号、143頁、昭和52年
8.山本茂ら:山城町住民の栄養調査、郷土研究発表会記要、第24号、131頁、昭和53年
9.鈴木和彦ら:市場町住民の栄養調査、郷土研究発表会記要、第25号、昭和54年

 

図・表


徳島県立図書館