阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第27号
上板町のチリモ類

徳島県植物同好会 日出武敏

 上板町は、チリモ類が非常に乏しい所である。ほとんど全域を自転車でかけまわって採集したが、検出された種類も個体数もともに極めて僅少であった。地域内には、多数の池が散在しているので、かなりの種類が見出されるのではないかと期待をもっていたのであるが、大いに失望を感じた。神宮寺の附近にかなりの面積の池があり、ヒツジグサが一面に茂っているので、大きい期待をかけていたが、ミカヅキモとツヅミモのありふれた種類が一種づつ見出されたにすぎなかった。また、果樹試験場の域内に、水草のかなり繁茂した池があったので、こここそはと思っていたが、残念ながら1個体のチリモも見出すことができなかった。これは一体どうしたわけであろうかと考えてみた。これらの池はほとんど水田灌漑のためのもので、水が絶えず入れかわっていて、時には水が乾上ってしまうこともあり、又周縁の水草なども除去されていくため、チリモ類の増殖が著しく妨げられているのではあるまいか。これに対して、水田内から採集した資料の中からは、かなりの数のチリモ個体を見出すことができた。これは、水源から供給されたチリモが、水田の中で盛んに増殖したためであろうか。
 上板町全域から見出されたチリモ類は、種類数、個体数ともに僅少で、5属、17種、9変種で合計5属26種類にすぎなかった。この中で興味深く思われたものは、Closterium nasutum var. nanumと、Cosmarium decedensとの2種類だけであった。
 採集を行なった場所は下記の通りである。
1.神宮寺近傍、ヒツジグサ池
2.泉谷 池a
3.泉谷 池b
4.泉谷 水田
5.熊ノ庄 池a
6.熊ノ庄 池b
7.熊ノ庄 池c
8.瀧ノ宮 八坂神社境内の小水溜り
9.瀧ノ宮 小池
10.果樹試験場域内の小池
11.大山町 水田
 検査された種類の名称は次の通りである。下に各細胞の大きさを示してあるが、その略字は次の通りである。
 L=細胞の長さ、W=細胞の幅、I=細胞の峡部の幅、T=細胞の厚さ。単位はすべてミクロンで示す。
1.Closterium acutum Breb.
  L 122-151;W 5 産地8
2.Cl. calosporum Wittr. var. brasiliense B■rges.
  L 137-181;W 12-14 産地8
3.Cl. leibleinii Kuetz.
  L 172-230;W 28-35 産地1,3,11
4.−− var. recurvatum W. et G. S. West
  L 141;W 31 産地11
 本変種は1908年、ウエスト父子によってビルマから報告されたもので、その後、南北アメリカから各1ケ所ずつ見られただけである。本県では各所でかなり広く見出されるのに、他府県からの報告はない。
5.Cl. littolare Gay.
  L 133;W 15 産地11
6.Cl. nasutum Nordst. var. nanum Hinode
  L 185-361;W 31-37 産地4,11
 昨年、池田町中西の「コトボシ池」で発見されたもので、小形のものであるから、新変種とした。基本種は南米を分布の主体としているようで、まことに興味深いものである。
7.Cl. tumidum Johns.
  L 206;W 25 産地11
8.Cl. venus Kuetz.
  L 87;W 12 産地4
9.Pleurotaenium ehrenbergii (Br■b) De Bary
  L 351;W 33 産地4
10.Euaatrum sinuosum Lenorm. var. gangense (Turn.) Krieg.
  L 71-80;W 38-41;I 13 産地8
11.E.verrucosum Ehrenb.
  L 89;W 70;I 21 産地11
12.Cosmarium angulosum Br■b.
  L 19;W 14;I 4 産地3
13.C. decedens (Reinsch) Racib.
  L 37-40;W 22;I 12-13;T 16 産地8
 極地性又は高山性として知られているもので、ラプランドやスピツベルゲン、カナダ北部等で報告されている。日本では、大雪山や秋田県の駒ケ岳、尾瀬沼等が産地としてあがっている。本県では、筆者が三嶺山頂の池で観察している。こんな種類が上板町で見出されたことは、まことに興味あることである。
14.C. granatum Breb.
  L 24;W 17;16 産地7
15.C. laeve Rabcnh. var. septentrionale Wille
  L 19;W 15;I 4 産地11
16.C. Iundellii Delp. var. circulare (Reinsch) Krieg.
  L 55-58;W 46-49;I 16-18 産地4
17.C. obtusatum Schmidle.
  L 52-58;W 48;I 14 産地1,4
18.C. subcostatum Nordst.
  L31-32;W25-28;I 7-9. 産地3,4,6
19.−− var. minus W. et G. S. West
  L 25;W 22;I 6
20.C. subdanicum West
  L 18;W 16;I 4 産地11
21.C. subgranatum (Nordst.) Luetkem.
  L 24-33;W 18-23;I 5-8 産地1,3
22.C. turpinii Br■b. var. eximium W. et G. S. West
  L 32;W 28;I 8 産地11
細胞体は甚だ小さく、ただ1回しか見られなかったので、不確実である。
23.−− var. podolicum Gutw.
  L 56;W 47;I 15 産地11
24.C. westii Bernard.
  L 62;W 41 産地4
25.Staurastrum hexacerum (Ehrenb.) Wittr.
  L 28;W 29;I 8 産地4
26.St. punctulatum Br■b.
  L 27;W 26;I 10 産地4

 図版説明
図I 8×350,他全×550
1.Closterium acutum Br■b.
2.Cl. tumidum Johns.
3.Cl. leibleinii Kuetz.
4.−− var. recurvatum W. et G. S. West
5.Cl. venus Kuetz.
6.Cl. littolare Gay
7.Cl. calosporum Wittr. var. brasiliense Boerges.
8.Pleurotaenium ehrenbergii (Br■b.) De Bary.
9.Euastrum sinuosum Lenorm. var. gangense (Turn.) Krieg.
10.E. verrucosum Ehrenb.
11.Cosmarium obtusatum Schmidle.
12.C. granatum Br■b.
13.C. laeve Rabenh. var. septentrionale Wille.

図II 全図×550
1,2.Closterium nasutum Nordst. var. nanum Hinode.
3.Cosmarium westii Bernard.
4.C. lundellii Delp. var. circulare (Beinsch) Krieg.
5.C. subgranatum (Nordst.) Luetkem.
6.C. decedens (Reinsch) Racib.
7.C. angulosum Br■b.
8.C. turpinii Br■b. var. eximium W. et G. S. West.
9,10.C. subcostatum Nordst.
11.−− var. minus W. et G. S. West.
12.C. subdanicum West.
13,14.C. turpinii Br■b. var. podolicum Gutw.
15.Staurastrum punctulatum Br■b.
16.St. hexacerum (Ehrenb.) Wittr.

図1

   

 

図2

   


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