阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第27号
上板町の水生昆虫

水生昆虫班 徳山豊・神野朗

1.はじめに
 今回、阿波学会による上板町総合学術調査に、水生昆虫班として参加し、町内を流れる主な河川にすむ水生昆虫を調査した。調査の主たる目的は、水生昆虫相を調べることとし、比較的水量もあり、河床の安定な地点を選んで採集を行った。河川の他に、一部の池も採集地点に選び調査したが、期待した結果は得られなかった。わずかに水生昆虫の姿が見られた祝谷ため池の結果を報告する。調査は、昭和55年7月28日〜8月1日の間で、この期間中、特に大きな降雨もなく河床の状態に変化は見られなかった。

 

2.調査地点と調査方法
 上板町を流れる主な河川といえば、泉谷川、宮ケ谷、大山谷(盗人谷)、大谷、宮川内谷川の一部、吉野川の一部であろう。泉谷川、宮ケ谷、大山谷、大谷はいずれも山間部を流れる渓流である。宮川内谷川、吉野川は平野部を流れる平地流である。これらの水系に、図1に示すように16か所の調査地点を置き採集調査した。

各調査地点の様相を述べると、st.1は泉谷川の上流部である。源流性の流れであるが砂防堤工事中で、河底は荒れ、水量も乏しく荒廃している。st.2は河床はやや荒れているが、水量もあり、頭大の石礫が多い。st.3、st.4は泉谷川に流れ込む小さい渓流である。流れ幅が2m位で、清水が流れる。st.5は、河床もやや安定している。st.6は和泉寺の約100m上手の谷である。水は汚濁し、白濁色をしている。

st.7では、家庭排水の流入も見られ、水は黒ずんだ色をしている。以上が泉谷川であるが、全体に河床の荒廃、水質の汚濁が見られ、水生昆虫相は貧弱であろうと予想された。st.8は宮ケ谷の上流で、自然な状態の山地渓流である。河床も安定し、石礫底で水も清冽である。st.9は大山谷の上流部で、河床は小さな石礫が多く、不安定な状態である。各所に砂防堤が築かれているのは、砂礫の流出が激しいことを示すのであろう。st.10は、山地部から平地部へ移る中間渓流で、水量がやや少なく、平瀬の状態である。st.11は大谷の上流部で、源流性の流れであるが、水量が乏しいのと、底質が岩盤で石礫が少ないことから、水生昆虫相は貧弱であると思われた。st.12〜st.14は宮川内谷川であるが、これらの地点は降水量が少ない時は、水量も減り、水枯れすることもある。今回は、水量もあり、流れが見られた。かつては美しい流れであったと思われるが、現在は汚濁がすすみ、水生昆虫も汚濁に強いものが生息し、汚濁に弱いものは絶滅していると予想された。特にst.14は汚濁がひどく、川というより、下水路である。採集するまでもなく、水生昆虫の生息できる状態でないが、清水の湧き出す所があり、そこで採集してみることにした。また、汚水の流れる川底も念のために調査した。st.15は上板町井ノ内付近に見られる瀬で、吉野川もこの地点から下流は水量も増え、瀬の状態は見られなくなる。st.16は高瀬橋のたもとにできた、大きなたまりで水草もはえ、池のような状態の所である。蜻蛉類などが多く採集されると予想されたので調査した。st.17は山間部に作られた大きな貯水池である。水は赤茶色に濁り、あまり水生昆虫も採集されそうに見えなかったが、他に見られる池はもっと汚濁しており、この池を調査することにした。以上、各調査地点の様相を述べたが、自然な状態で、水生昆虫の種類が豊富に見られると予想される地点はわずかであった。
 調査の方法は定性採集をとった。各地点で、金属製のザルを用いて、川底の砂・石礫をすくいとり、その中の水生昆虫類をピンセットでとり出す。水面に見られるものは、竹ザオにつけたザルですくいとる。各地点で、付近一帯からできるだけ多くの種類を集めた。

 

3.調査結果と考察
 調査地点の環境要因として、気温・水温を測定した結果を表1に示した。採集された水生昆虫は、表2に示すように、蜉蝣目20種、毛翅目20種、■翅目3種、蜻蛉目9種、双翅目7種、広翅目3種、鞘翅目4種、半翅目6種の計8目72種である。水生昆虫以外の底生動物として、ヒル類、甲殻類、貝類、ウズムシ類など8種が採集された。表3に示すように、蜉蝣目と毛翅目で全体の80%を占めている。


 種類としては、山地渓流や平地流にふつうに見られるものが、だいたい姿を見せている。地点別にみると、種類数、個体数に大きな差がでている。調査地点の様相で述べたように、河床が荒廃している地点や水質の汚濁が見られる地点では、種類数、個体数が著しく少ない。河床が安定し、水が清洌であれは、もっと多くの種類が生息するのであるが、だんだんと姿を消していると予想される。
 次に、各地点で見られた特徴種をあげてみたい。


 st.9、st.12、st.14で採集されたフタバカゲロウは、止水性のカゲロウで、st.9では砂防堤によってできた水たまりで採集された。st.12で多くの個体が採集されたコガタシマトビゲラは、平地のやや汚濁のすすんだ所に多く見られるものである。st.15で採集されたオオシマトビケラは、分布が局地的で、県下の河川では吉野川に広く生息する他は、特定の河川でのみ生息を確認している。今回の調査では、吉野川のst.15の地点以外では採集されなかった。チャバネヒゲナガカワトビケラも、河川の上流域には見られないものでst.15の地点で採集されただけである。1979年7月と1980年1月に宮川内谷川の上流の調査をした結果、生息を確認した。しかし、今回の調査ではst.12〜st.14の宮川内谷川の各地点では採集されなかった。下流域が汚濁化し、上流域で生息するようになったのであろう。st.6で27個体も採集されたコバントビケラは、現在までのところ宮川内谷川の宮川内ダムの下流で、1個体採集されているだけである。

  

今回、この地点で多く生息することがわかった。本来池や沼に生息するもので、st.6の汚濁した淵で採集した。図3に示すように、コバン型に切った木の葉を2枚重ね合わせた巣を作る。st.9の砂防堤によってできた水たまりの泥中から、カスリホソバトビケラを多数採集した。池・沼に見られる種類で、今回初めて採集された。st.3、st.4、st.8で採集されたムカシトンボの幼虫は、生きた化石といわれ、わが国の渓流だけに見られるものである。近年、自然の荒廃とともに、急激に姿を消している。カワニナは、ホタルの幼虫の食餌となる貝であるが、st.6、st.7でわずか見られただけで、ほとんど生息していない状態である。汚水の流入による水質の汚濁、農薬の散布、護岸工事、河床の荒廃など様々な原因で、ホタルはほとんど見られなくなってしまったが、その餌であるカワニナも、ホタル同様、姿を消しつつあるといえよう。

 

4.おわりに
 今回の調査で、上板町の河川は地点によっては、水生昆虫相が極めて貧弱であることがわかった。比較すべき資料がないので、ずっと以前からそうであったのか、次第に水生昆虫が姿を消していったのか分からない。全体に河床が不安定で、汚濁がすすんだ地点も見られた。今後、水生昆虫がますます姿を消し自然な美しい流れが失われてしまわないよう、お願いしたい。

 参考文献
1)津田松苗 1962:水生昆虫学
2)桑田一男 1972:石手川における水生昆虫の生態
3)徳山豊(他) 1980:池田町の河川における水生昆虫郷土研究発表紀要26 109〜116阿波学会、徳島県立図書館

 


徳島県立図書館