阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第27号
上板町の鳥類

鳥類班 

 西岡桂子・増谷正幸・藤憐子・栄勇・

 曽良寛武・三宅武・神原寛・新山美枝・

 吉田益子・大村龍一・酒井正勝・

 賀勢健治・坂東悟・小川純一・

 岩野泰三・柴折史昭

1.はじめに
 阿波学会の総合学術調査に、今回初めて日本野鳥の会徳島県支部が鳥類班として参加し本格的な調査を試みた。
 上板町全域の鳥相を少しでも正確に把握するために、6カ所で夏、秋、冬三季の調査を行った。また、神宅の台山では日本野鳥の会徳島県支部の探鳥会が毎月行われており、この記録も参考にした。
 今回は、春から初夏にかけての繁殖期の調査が行えなかったが、三季の鳥相変化と鳥類目録などで調査報告にかえる。

 

2.調査地区と調査方法
1)調査地区の選定:上板町は、北から大山(691m)を頂点とする低山帯、それに続く山麓、市街地、農耕地(乾田、畑作地帯)、大河川(吉野川)といった環境が展開している。これら様々に異なる環境における鳥相把握のため、図1のように町全体を14のメッシュに分け、そのうち第3、第4、第8、第11、第13、第14のメッシュを調査地区としてサンプリングした。


2)調査方法:調査開始が7月下旬であったため、多くの鳥類の繁殖最盛期である春から初夏にかけての調査は行えなかったが、7月末〜8月初、10月下旬、12月上旬の3季についてそれぞれの調査地区内での現地調査を実施した。調査には、最も一般的に行われているラインセンサス法(ロードサイドカウント法)を用いた。これは、調査地区の中に1kmの長さの調査コースを設定し(普通は2kmのコースが用いられることが多いが、今回の調査では調査地区面積の関係から1kmコースとした。)、このコースを歩き左右25m以内に出現する鳥類の種、個体数を記録する方法である。ただし、第13メッシュについては定点カウントを行い、調査対象地区も石井町を含む第十のセキ一帯とした。また、神宅の台山では5月以降毎月1回調査(探鳥会)を行った。

 

3.調査結果及び考察
1)それぞれの調査地区でのラインセンサスによる優占種と出現種数及び出現個体数の季節変化を図2、図3に示した。
・ No.3区:大山寺を含むコースである。夏にはスズメが優占しているが、これは民家が近くにあるためと思われる。区外であるが、6月29日に大山頂上(標高690m付近)でスズメ3巣6羽が観察されている。標高450m〜600mの山林のコースで、スズメ、ホオジロ、キジバトが夏季に優占することは、森林破壊がかなり進んでいることを示している。
 秋の調査でエナガの個体数が急増しているのは、エナガは秋冬季に群行動をし、その群れがコース内に出現したためである。
 秋冬季に、エナガ、ヒヨドリ、メジロ、アオジ等が上位を占めるのは低山帯雑木林の典形的なタイプである。
・ No.4区:泉谷川沿いのコースである。低山の二次林、あるいはさらにそれを開いた環境では、夏季、ホオジロ、ウグイス、ヒヨドリ、キジバト等が優占してくるが、ここでは顕著にその傾向が現れている。
 秋冬期にも、ヒヨドリ、キジバト、ジョウビタキ、ホオジロ等、低山の雑木林の鳥が優占している。
 なお、夏の調査で泉谷川でカワガラスが観察された。これは阿讃山脈では鳴門市大麻町西谷に次ぐ東端での記録である。繁殖の可能性もあると考えられるが、泉谷川は周囲の森林破壊等の影響で川底が荒れ、カワガラスの餌である水生昆虫が極めて少ないため生息には好適な環境とは言えない。


・ No.8区:人家密集地から山麓の雑木林にかけてのコースである。夏秋冬3季を通じて、スズメ、ツバメ、ムクドリ等人家に密着した生活をする鳥が優占している。しかし、平地の市街地から山麓の雑木林へと、コース内で環境の変化がみられるため、出現種数は山間部のNo.3、No.4の区よりもかえって多くなっている。
・ No.11区:水田地帯のコース。3季ともスズメ、ツバメ、コサギ、ヒバリ、タシギ、ハシボソガラス等の水田地帯を代表する種が優占している。
 ハシボソガラス、ムクドリは秋冬季に群行動をすることが多いが、秋、冬の調査でこの2種が優占種としてあがっているのは、いずれもコ−ス内に群れが出現したためである。
 タシギは湿地や湿田で普通に越冬するが、上板町の水田は殆んどが乾田で、このコースも乾田畑作地帯にある。にもかかわらず、秋冬にタシギの個体数が多いのは、コース内に用水路がありここに多く生息するためで、水田全体に多く生息しているものではない。
・ No.14区:吉野川北岸堤沿いのコース。夏季には平地の草地に多いセッカが優占している。秋季のコシアカツバメは南下途中の群れと思われる。冬季のユリカモメは吉野川を溯って来たものである。
2)第十における定点カウント結果(No.13区、図4、図5)ここでは石井町も一部含めた第十のセキ一帯を調査区としている。


 夏季はカルガモ、イソシギが優占している。カルガモは、県内で繁殖する唯一のカモであるが、第十のセキ付近でも繁殖していると思われる。イソシギは県内では主に旅鳥であるが、ここで出現したものは秋の渡り(南下)のものと思われる。
 秋季には、冬鳥として南下して来たカルガモ、マガモを中心にカモ類が急増する。
 冬季は冬鳥のユリカモメが増加するが、一方カモ類は秋季に比べ種数、個体数ともに急減する。このカモ類の個体数の変化を図6に示した。

対照のために吉野川河口の変化も併記してあるが、11月15日の狩猟解禁と同時に第十のセキではカモ類は激減するのに、吉野川河口では個体数の減少は見られず、かえって増加する傾向にある。これは、第十のセキ一帯は猟区(いわゆる乱場)であり、吉野川河口は鳥獣保護区であるためである。上板町と石井町にまたがる第十のセキ一帯に保護区を設置すれば、県内有数のカモ類の越冬地になるはずである。
3)タカ類の秋の渡りについて
 タカ類の秋の渡りのコースを解明するために、9月下旬から10月中旬にかけて県内十数カ所で調査を行い、上板町でも神宅に調査地点を置いた。(図7、表1)


 サシバを主としたタカ類の秋の渡りのコースは、大きく二つに分けて見ることができる。ひとつは蒲生田岬を中心とした県南部に入り剣山系を西へ進むコースである。もうひとつは、淡路島から鳴門海峡を経て阿讃山脈を西に進むコ−スである。鳴門経由のものは、鳴門から南へ下り、眉山、中津峰などを経て剣山系のコースヘ入るものもあるが、大部分がそのまま西へ進み、上板町を通過して阿讃山脈沿いのコ−スをとるようである。
4)特記すべき種について
・ ヨタカ
 ヨタカは、夏鳥として県内の山麓から標高1400m付近にかけて渡来し繁殖している。県内の繁殖記録は、1980年7月一宇村でヒナが発見された例があるが、今回の調査で7月28日、初めて巣と2卵が発見された。この巣卵は大山の標高550mの道路脇にあったもので親鳥が抱卵中であった。巣は巣材を殆んど用いず地面に直接産んであったが、卵は親鳥の体色と同じく保護色で、土や枯葉などにうまくとけ込んでいた。親鳥は人が近づくと巣から飛び立ち数メートル離れたところへ降りてうずくまり、親鳥の方へ近づこうとするとまた少し飛んでは地上に降りる「疑傷行動」をさかんに行うのが観察された。その後、巣から2卵ともなくなったが、ふ化してヒナが移動したものか、外敵に持ち去られたものか不明である。

  
・ ショウドウツバメ
 ショウドウツバメは北海道で繁殖し、本州以南では春秋に通過する旅鳥であるが、県内での過去の記録は極めて少なかった。しかし1980年10月には鳴門市、小松島市、鴨島町などで数十から200±の群れが観察され、上板町でも高志の水田地帯、第十のセキ付近で観察された。中でも第十のセキではコシアカツバメ30±とショウドウツバメ60±〜80±の混群が10月17日から10月28日まで見られた。過去極めてまれに、しかも数羽しか記録されなかったショウドウツバメが1980年の秋になぜこれだけの数が現れたのか、原因はわからない。

  

  

 

4 上板町鳥類目録(1979年12月〜1981年2月の間に記録されたもの)

    カイツブリ目 Order PODICIPEDIFORMES
   カイツブリ科 Family PODICIPITIDAE
1.カイツブリ Podiceps ruficollis Little Grebe
2.ハジロカイツブリ Podiceps nigricollis Black-necked Grebe, Eared Grebe
3.カンムリカイツブリ Podiceps cristatus Great Grested Grebe

    コウノトリ目 Order CICONIIFORMES
   サギ科 Family ARDEIDAE
4.ゴイサギ Nycticorax nycticorax Night Heron, Black-crowned Night Heron
5.ササゴイ Butorides striatus Green-backed Heron
6.アマサギ Bubulcus ibis Cattle Egret
7.ダイサギ Egretta alba Large Egret
8.コサギ Egretta garzetta Little Egret
9.アオサギ Ardea cinerea Grey Heron

    ガンカモ目 Order ANSERIFORMES
   ガンカモ科 Family ANATIDAE
10.マガモ Anas platyrhynchos Mallard
11.カルガモ Anas poecilorhyncha Spotbill Duck
12.コガモ Anas crecca Teal
13.トモエガモ Anas formosa Baikal Teal
14.ヨシガモ Anas falcata Falcated Teal
15.オカヨシガモ Anas strepera Gadwall
16.ヒドリガモ Anas penelope Wigeon
17.アメリカヒドリ Anas americana American Wigeon
18.オナガガモ Anas acuta Pintail
19.ハシビロガモ Anas clypeata Shoveler
20.ホシハジロ Aythya ferina Pochard
21.キンクロハジロ Aythya fuligula Tufted Duck
22.スズガモ Aythya marila Scaup, Greater Scaup
23. ミコアイサ Mergus albellus Smew

    ワシタカ目 Order FALCONIFORMES
   ワシタカ科 Family ACCIPITRIDAE
24.ミサゴ Pandion haliaetus Osprey
25.ハチクマ Pernis apivorus Honey Buzzard
26.トビ Milvus migrans Black (or Black-eared) Kite
27.ノスリ Buteo buteo Buzzard
28.サシバ Butastur indicus Gray-faced Buzzard-Eagle

   ハヤブサ科 Family FALCONIDAE
29.チョウゲンボウ Falco tinnunculus Kestrel

    キジ目 Order GALLIFORMES
   キジ科 Family PHASIANIDAE
30.ウズラ Coturnix coturnix Common Quail
31.コジュケイ Bambusicola thoracica Bamboo Partridge
32.キ ジ Phasianus coichicus Common Pheasant

    チドリ目 Order CHARADRIIFORMES
   タマシギ科 Family ROSTRATULIDAE
33.タマシギ Rostratula benghalensis Painted Snipe

   チドリ科 Family CHARADRIIDAE
34.コチドリ Charadrius dubius Little Ringed Plover
35.イカルチドリ Charadrius placidus Long-billed Ringed Plover
36.シロチドリ Charadrius alexandrinus Kentish Plover

   シギ科 Family SCOLOPACIDAE
37.キョウジョシギ Arenaria interpres Turnstone
38.トウネン Calidris ruficollis Red-necked Stint
39.ハマシギ Calidris alpina Dunlin
40.エリマキシギ Philomachus pugnax Ruff
41.アオアシシギ Tringa nebularia Greenshank
42.クサシギ Tringa ochropus Green Sandpiper
43.タカブシギ Tringa glareola Wood Sandpiper
44.キアシシギ Tringa brevipes Asian Wandering Tattler
45.イソシギ Tringa hypoleucos Common Sandpiper
46.タシギ Gallinago gallinago Common Snipe

 カモメ科 Family LARIDAE
47.ユリカモメ Larus ridibundus Black-headed Gull
48.セグロカモメ Larus argentatus Herring Gull
49.カモメ Larus canus Common Gull, Mew Gull
50.コアジサシ Sterna albifrons Little Tern

    ハト目 Order COLUMBIFORMES
   ハト科 Family COLUMBIDAE
51.キジバト Streptopelia orientalis Rufous Turtle Dove
52.アオバト Sphenurus sieboldii Japanese Green Pigeon

    ホトトギス目 Order CUCULIFORMES
   ホトトギス科 Family CUCULIDAE
53.ホトトギス Cucutus poliocephalus Little Cuckoo

   フクロウ目 Order STRIGIFORMES
   フクロウ科 Family STRIGIDAE
54.アオバズク Ninox scutulata Brown Hawk Owl

    ヨタカ目 Order CAPRIMULGIFORMES
   ヨタカ科 Family CAPRIMULGIDAE
55.ヨタカ Caprimulgus indicus Jungle Nightiar

    アマツバメ目 Order APODIFORMES
   アマツバメ科 Family APODIDAE
56.ハリオアマツバメ Chaetura caudacuta White-throated Needle-tailed Swift
57.ヒメアマツバメ Apus affinis House Swift
58.アマツバメ Apus pacificus White-rumped Swift

    ブツポウソウ目 Order CORACIIFORMES
   カワセミ科 Family ALCEDINIDAE
59.カワセミ Alcedo atthis Kingfisher

    キツツキ目 Order PICIFORMES
   キツツキ科 Family PICIDAE
60.アオゲラ Picus awokera Japanese Green Woodpecker
61.コゲラ Dendrocopos kizuki Japanese Pygmy Woodpecker

    スズメ目 Order PASSERIFORMES
   ヒバリ科 Family ALAUDIDAE
62.ヒバリ Alauda arvensis Skylark

   ツバメ科 Family HIRUNDINIDAE
63.ショウドウツバメ Riparia riparia Sand Martin
64.ツバメ Hirundo rustica House Swallow
65.コシアカツバメ Hirundo daurica Red-rumped Swallow
66.イワツバメ Delichon urbica House Martin

   セキレイ科 Family MOTACILIDAE
67.キセキレイ Motacilla cinerea Grey Wagtail
68.ハクセキレイ Motacilla alba White Wagtail
69.セグロセキレイ Motacilla grandis Japanese Wagtail
70.ビンズイ Anthus hodgsoni Olive-backed Pipit
71.タヒバリ Anthus spinoletta Water Pipit

   サンショウクイ科 Family CAMPEPHAGIDAE
72.サンショウクイ Pericrocotus divaricatus Ashy Minivet

   ヒヨドリ科 Family PYCNONOTIDAE
73.ヒヨドリ Hypsipetes amaurotis Brown-eared Bulbul

   モズ科 Family LANIIDAE
74.モズ Lanius bucephalus Bull-headed Shrike

   カワガラス科 Family CINCLIDAE
75.カワガラス Cinclus pallasii Brown Dipper

   ミソサザイ科 Family TROGLODYTIDAE
76.ミソサザイ Troglodytes troglodytes Wren

   ヒタキ科 Family MUSCICAPIDAE
    ツグミ亜科 Subfamily TURDINAE
77.ルリビタキ Tarsiger cyanurus Siberian Bluechat
78.ジョウビタキ Phoenicurus auroreus Daurian Redstart
79.ノビタキ Saxicola torquata Stonechat
80.トラツグミ Turdus dauma White's Ground Thrush
81.クロツグミ Turdus cardis Grey Thrush
82.アカハラ Turdus chrysolaus Brown Thrush
83.シロハラ Turdus pallidus Pale Thrush
84.ツグミ Turdus naumanni Dusky Thrush

    ウグイス亜科 Subfamily SYLVIINAE
85.ヤブサメ Cettia squameiceps Short-tailed Bush Warbler
86.ウグイス Cettia diphone Bush Warbler
87.オオヨシキリ Acrocephalus arundinaceus Great Reed Warbler
88.センダイムシクイ Phylloscopus occipitalis Crowned Willow Warbler
89.キクイタダキ Regulus regulus Goldcrest
90.セッカ Cisticola juncidis Fan-tailed Warbler

    ヒタキ亜科 Subfamily MUSCICAPINAE
91.オオルリ Cyanoptila cyanomelana Blue-and-white Flycatcher
92.コサメビタキ Muscicapa latirostris Brown Flycatcher

    カササギヒタキ亜科 Subfamily MONARCHINAE
93.サンコウチョウ Terpsiphone atrocaudata Black Paradise Flycatcher

   エナガ科 Family AEGITHALIDAE
94.エナガ Aegithalos caudatus Long-tailed Tit

   シジュウカラ科 Family PARIDAE
95.ヤマガラ Parus varius Varied Tit
96.シジュウカラ Parus major Great Tit

   メジロ科 Family ZOSTEROPIDAE
97.メジロ Zosterops japonica Japanese White-eye

   ホオメジロ科 Family EMBERIZIDAE
98.ホオジロ Emberiza cioides Siberian Meadow Bunting
99.カシラダカ Emberiza rustica Rustic Bunting
100.ミヤマホオジロ Emberiza elegans Yellow-throated Bunting
101.アオジ Emberiza spodocephala Black-faced Bunting
102.クロジ Emberiza variabilis Grey Bunting

   アトリ科 Family FRINGILLIDAE
103.カワラヒワ Carduelis sinica Oriental Greenfinch
104.マヒワ Carduelis spinus Siskin
105.ウソ Pyrrhula pyrrhula Bullfinch
106.コイカル Eophona migratoria Chinese Grosbeak
107.イカル Eophona personata Japanese Grosbeak
108.シメ Coccothraustes coccothraustes Hawfinch

   ハタオリドリ科 Family PLOCEIDAE
109.スズメ Passer montanus Tree Sparrow

   ムクドリ科 Family STURNIDAE
110.コムクドリ Sturnus philippensis Red-cheeked Myna
111.ムクドリ Sturnus cineraceus Grey Starling

   カラス科 Family CORVIDAE
112.カケス Garrulus glandarius Jay
113.ハシボソガラス Corvus corone Carrion Crow
114.ハシブトガラス Corvus macrorhynchos Jungle Crow


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