阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第38号
半田町の植物相

植物同好会班(徳島県植物同好会)

  木下覚・阿部近一・赤澤時之
  木村晴夫・木内和美・
真鍋邦夫

1.自然環境の概況
 半田町は徳島県の西部に位置する面積51.79平方キロメートルの山間地である。東は貞光町、西は三加茂町に隣接し、南は急峻な山地となり、一宇村、東祖谷山村等と接している。
 地形はその大部分が山地で、北部を除く三方は起伏に富む山並みで囲まれている。殊に南部及びその西端部には、本町最高峰の白滝山(1526.1m)が聳え、その北には火打山、東には焼堂峠など、海抜 1000m 以上の険しい峰々が連なっている。
 白滝山を源とする半田川は、大藤谷川をはじめ、東谷川、高清谷川などの支流の水を集めながら半田町のほぼ中央部を流れ下って吉野川に注いでいる。平地は極めて少なく、半田川によって作られた、河岸段丘やわずかな沖積地があるのみで、これらの殆どは、住宅地や水田等に利用されている。
 地質は三波川帯に属し、緑色片岩、泥質片岩、あるいはそれらの互層などの結晶片岩層より成る。
 気候については、本町の気象観測データは無いが、穴吹、池田のものを参考にすると、年平均気温は池田13.5℃、穴吹14.5℃。降水量は、池田 1420mm、穴吹 1294mm(いずれも徳島地方気象台調べ、1979年〜1983年)なので、半田はほぼこの中間の値を示すものと推測される。また、地形的に北部の平地と南部の山地の高度差は、約 1500m もあり、それに伴う気温の変化が、地質や土壌、変化に富んだ地形と相まって、植物にとっては多様な生育環境を作り出し、植物相は本来豊かであると考えられる。

2.植生の概況
 半田町全域を植生の分布によって大まかに分けると、標高約 500m 以下に見られる暖温帯域、約 500m〜1000m の間に見られる中間温帯域、約 1000m 以上の冷温帯域となる。
 これらの地域では、本来それぞれを特徴づける植生が発達するはずであるが、本町は歴史も古く、古くから開発が進められてきたために、殆どの森林は伐採され、アカマツやコナラなどの二次林となり、スギ・ヒノキなどの植林は1000m付近の冷温帯域にまで及んでいる。そのため、自然植生を残すところは殆ど無く、わずかに、社寺林や急峻な斜面や崩壊地などに、わずかにその名残りを留めているに過ぎない。
(1)暖温帯域の植物
 河川に沿った標高1500m以下の河岸段丘や低山、丘陵地等は、人々の生活の場として昔から人為的作用が強く働いてきたため、暖温帯域を特徴づける自然林が残っているところは極めて少ない。わずかに社寺やその周辺の樹林、あるいは河川沿いの崖地等に残されている自然林に近い状態の樹林からかつての植生を推測できるに過ぎない。
 1 暖温帯常緑広葉樹林
  ア 光神社(佐古戸)の社叢(調査地1 )
   ここは植栽されたスギが大きく生育して目だつものの社殿の周囲にはツブラジイ、スダジイ、アラカシなどの優占する樹林が残されていて、次のような組成をもち、暖温帯常緑広葉樹林の姿を留めている。
  高木層 スダジイ(優占)(1.89m)、シラカシ、アラカシ、ツブラジイ、スギ(栽、胸高周2.44m)、(2.83m)、(2.53m)、(2.31m)、カゴノキ(3.49m)、エノキ(2.10m)、ムクノキ(2.76m)。
  亜高木層 サカキ、ヤブツバキ、ツブラジイ、タラヨウ。
  低木層  ヤブツバキ、カゴノキ、ヤマウルシ、クサギ、ヒサカキ、サルトリイバラ、イロハカエデ、アオキ、イヌビワ、テイカカズラ、アラカシ、カナメモチ、コシアブラ、フユヅタ、ヤブニッケイ、イヌツゲ。
  草本層  ベニシダ、マルバベニシダ、オニカナワラビ、ナガバジャノヒゲ、ケチヂミザサ、ヤブコウジ、ツルリンドウ、フユヅタ、マメヅタ、フユイチゴ。
  イ 黒尾神社(佐古戸)の社叢(調査地2 )
   境内には植栽されたスギの大樹があり、社殿前周辺にはシラカシ、クスノキなども残され、そこから更にツブラジイの優占する樹林へと続いている。
高木層 シラカシ(3.60m)、(3.67m)、(4.15m)、ムクノキ(2.66m)、(2.94m)、スギ(栽)(3.57m)、(2.77m)、(3.38m)、ツブラジイ(優占)(1.52m)、(2.73m)、スダジイ(1.78m)、アオハダ、コナラ。
  亜高木層 コナラ、アラカシ、シラカシ、サカキ。
  低木層  アオキ、ヒサカキ、カナメモチ、イヌガヤ、シキミ、シュロ、ヒノキ、カゴノキ、チャ、タカノツメ、イズセンリョウ、ヤブツバキ、シラカシ、ビワ、アセビ、サカキ。
  草本層  ヒメカナワラビ、オオサンショウソウ、ハカタシダ、クリハラン、シャガ、カンスゲ、フモトシダ、ベニシダ、タカサゴキジノオ、ミヤマノコギリシダ、キレバミヤマノコギリシダ、フユイチゴ。
  ウ 三社神社(下竹)の社叢(調査地3 )
   ここの社叢は一度は伐採されたものと思われるが、イチイガシやムクノキなどの大木が残されている。神社の境内及び社殿裏の樹林には次のような植物が生育している。

 ・境内の樹林
  スギ(栽)(4.00m)、ヤブツバキ(1.47m)、(1.38m)、(1.14m)、イロハカエデ(2.20m)、アラカシ、シラカシ。
 ・社殿裏の樹林
  高木層 イチイガシ(5.51m)、(3.12m)、アラカシ(2.65m)、カゴノキ、チシャノキ(1.62m)、ムクノキ(3.63m)。
  低木層 アオキ、ヤブムラサキ、シュロ、コミカンソウ、ヤブツバキ、ヤダケ、テイカカズラ、シロダモ、アラカシ、マサキ。
  草本層 メヤブソテツ、オオハンゲ、クリハラン、ジャノヒゲ、イワガネゼンマイ、ヒメカナワラビ、ホドイモ、ハカタシダ、キジノオシダ、ウバユリ、サイコクイノデ、ヤブミョウガ、ヤブラン、ヤマヤブソテツ、クマワラビ、テイカカズラ。
  エ 今嶽三所神社(高清)のシイ林(調査地4 )
   川又の今嶽三所神社の神域にごくわずかにツブラジイやリンボクなどを含む樹林が残っていて、更にそこから尾根道を登ると、ツブラジイが優占する貧弱な二次林がある。
 ・神社境内横の樹林
  高木層 ツブラジイ(2.17m)、アラカシ(2.99m)、ツクバネガシ(1.04m)、シラカシ(1.89m)、リンボク(1.675m)。
  亜高木層 リョウブ、アカメガシワ、ソヨゴ。
  低木層 スノキ、アセビ、ウツギ、アブラチャン、クサギ、タカノツメ(イモノキ)、カキ、ヒサカキ、フユヅタ、カナメモチ、ナンテン、アオキ、ノリウツギ、ガクウツギ。
  草本層 ササクサ、ヤブコウジ、シシガシラ、ゼンマイ、ジャノヒゲ、ミズヒキ、キジノオシダ、シロバナショウジョウバカマ、ウスヒメワラビ、タカサゴキジノオ、フモトシダ、ギンリョウソウ、フユイチゴ。
 ・ツブラジイの優占する二次林
  高木層 ツブラジイ、ヒノキ、コナラ。
  亜高木層 タカノツメ、ヒノキ、ツブラジイ。
  低木層 ソヨゴ、コバノミツバツツジ、カナメモチ、オンツツジ、ヒサカキ、ヤブツバキ、ネジキ、ヒノキ、カクミノスノキ、リョウブ、ヤマツツジ、サカキ。
  草本層 シシガシラ、ヤブコウジ、サルトリイバラ。
 2 アカマツの二次林
  低山や丘陵地にはアカマツ林が多く見られたが、その多くがマツクイムシの被害によって枯死し、かつての面影を留める樹林は少ない。比較的被害の少ないアカマツ林を選んで、その構成種を調べると次のようであった。
 ア 高清のアカマツ二次林(調査地5 )
  高木層  アカマツ(優占)。
  亜高木層 アラカシ、スギ、タカノツメ、ネジキ、ソヨゴ、リョウブ、コナラ。
  低木層  カマツカ、アセビ、コシアブラ、ネジキ、コナラ、アラカシ、キハギ、ヒサカキ、スギ、コバノミツバツツジ。
  草本層  コシダ、シシガシラ、ヤブコウジ。
 イ 日開野のアカマツ林(調査地6 )
  高木層  アカマツ(優占)、コナラ、アベマキ、ヒノキ、アラカシ、ツブラジイ、ホウノキ。
  低木層  イヌツゲ、アラカシ、アセビ、ネジキ、ツブラジイ、ヒサカキ、タカノツメ、マルバウツギ、ヤマツツジ、サルトリイバラ、ヤブムラサキ、ウラジロノキ、ハゼ、クリ、アカマツ。
  草本層  シシガシラ、ツルリンドウ、ウラジロ、ベニシダ、シュンラン、トウゲシバ、タカサゴキジノオ、イチヤクソウ、コシダ、コウヤボウキ、カマツカ、ウツギ。
 3 コナラの二次林
  低山や丘陵地にはスギ、ヒノキ等と共にクヌギの植林がみられるが、植林の行われていないところではコナラの優占する二次林が発達する。本町にも次のようなコナラ林が見られる。
 ア 黒石のコナラ林(調査地7 )

  高木層  コナラ(優占)、アベマキ、クヌギ、アカマツ。
  亜高木層 タカノツメ、ネムノキ、ヤマザクラ、ソヨゴ、コナラ、アラカシ、ネジキ、アオハダ、アカシデ。
  低木層  ソヨゴ、アラカシ、カキ、オンツツジ、コバノミツバツツジ、アセビ、ヤブツバキ、マルバウツギ、ネジキ、ヤマフジ、ヤマツツジ。
  草本層  ヤブコウジ、ソヨゴ、シシガシラ、コウヤボウキ、ヤマウルシ、ウラジロ、シラヤマギク、ミツデウラボシ、ウラジロ。
 イ 中藪のアベマキ林(調査地8 )
  中藪庵の近くの山麓にアベマキ、クヌギ、コナラなどより成る次のような樹林が見られる。
  高木層  クヌギ(優占)、アベマキ(優占)、コナラ、スギ、ナナミノキ。
  亜高木層 コナラ、ナナミノキ、カゴノキ。
  低木層  マルバウツギ、ネズミモチ、アオキ、ナワシログミ、カゴノキ、タラヨウ、ビナンカズラ、ヤマウルシ、イヌビワ、ナンテン、ヒサカキ、ナナミノキ、チヤ、ノグルミ、ヤブニッケイ。
  草本層  イノコヅチ、タチシノブ、チヤ、ヤマカモジグサ、ホシダ、ヤブラン、シコクアザミ、センニンソウ、ヒメドコロ、ヤブニンジン、ケチヂミザサ、ジャノヒゲ、フユイチゴ。

(2)中間温帯域の樹林
 徳島県では標高約 500m 付近から約 900m 付近までは、暖温帯域から冷温帯域へ推移する中間の特徴をもつ樹林が発達する。
 1 コナラの二次林(調査地9 )
 ア 小井野のコナラ林
  小井野から尾根づたいに登ると、早春にはタムシバが咲き、シロバナエンレイソウの群生が見られる。殆どが、スギ、ヒノキの植林であるが、極くわずかに次のようなコナラの二次林が残されている。
  高木層  コナラ(優占)、ケヤマハンノキ、イロハカエデ、アカシデ、ヤマザクラ。
  低木層  ソヨゴ、イヌガヤ、コバノガマズミ、トサノミツバツツジ、コクサギ。
  草本層  シシガシラ、アサマリンドウ、ミヤマシケシダ。
 イ 大惣のコナラ林
  大惣から白滝山への登山道を少し登った付近にクリ、コナラなどが生育している樹林が見られる。
  高木層  クリ、アカマツ、ミズキ、ヤマザクラ、クマシデ、コナラ。
  亜高木層 コナラ、コミネカエデ、ウリカエデ、クマシデ、コハウチワカエデ。
  低木層  シロモジ、スギ、アオハダ、コバノガマズミ、コゴメウツギ、イタヤカエデ。
  草本層  カンスゲ、テンニンソウ、ウワミズザクラ、コマユミ、モミジガサ、ウツギ、シオデ、タンナサワフタギ、ヤマイヌワラビ、イボタノキ、ハナイカダ、シシガシラ、ゼンマイ、オオカモメヅル、シロバナエンレイソウ、シロモジ、イヌツゲ、ユキザサ、ホドイモ、シロバナショウジョウバカマ、トウゲシバ、ミツバアケビ、シシウド、ナルコユリ、シロヨメナ、ウスゲタマブキ。

 2 ブナの生育する十二社神社(調査地10 )
  小谷の標高約 600m の所に十二社神社がある。ここは垂直分布上は中間温帯域に属するところである。そのため、植栽されたスギの巨木の外にツガ、モミなどの針葉樹が生育し、それと共にシラカシ、ヒサカキ、ヤブニッケイ、シロダモ、サカキ、ソヨゴ、ヤブツバキ、シキミ、などの常緑樹とコハウチワカエデ、シラキ、ミズキ、アズサなどの落葉樹が混生している。ところが、これらの植物に混じって冷温帯域の標徴種のブナが生育していることで県内の他地域の植生とは特異である。徳島県ではブナの生育を見るのは、一般に標高約 1000m 以上の地域である。しかし、ここでは標高 600m の低山であるにもかかわらずブナが生育している。標高約 460m にある日浦の石堂神社の社叢にもブナが1本見られることと併せて、冬期は常緑広葉樹が生育できる温暖さが保たれ、夏期は逆にブナが生育できる冷涼な気候が保たれるといった両者の生存が可能な環境が成立しているものと推測される。
 樹林の構成樹種は次のようである。
  高木層  スギ(栽)(2.70m)、(2.60m)、(5.80m)、(5.95m)、(5.96m)、ケヤキ(2.70m)、ウラジロガシ(4.06m)、ツガ(3.85m)、(3.47m)、(3.21m)、(3.44m)、アズサ(2.83m)、モミ(3.33m)、ブナ(3.27m)、(2.84m)。
  亜高木層 コハウチワカエデ、ヤブニッケイ、ユズリハ、モミ、ツガ(シノブが着生)、スギ、ツルマサキ。
  低木層  オニイタヤ、アカメガシワ、シラキ、ヤブニッケイ、ウラジロガシ、ツルグミ、ヤマハゼ、エンコウカエデ、イロハカエデ、ヤマウルシ、コハウチワカエデ、シロダモ、ガクウツギ、ミヤマシキミ、イヌガヤ、ウラジロノキ、シキミ、ユズリハ、コシアブラ、テイカカズラ、ソヨゴ、ヒサカキ、ヤハズアジサイ、ウワミズザクラ、マツラニッケイ、ミズキ、ケヤキ、ヤブツバキ、ケクロモジ、ニワトコ、サカキ、コバンノキ、ウリノキ。
  草本層  ソヨゴ、ヌリワラビ、ナガバジヤノヒゲ、キヨタキシダ、ベニシダ、クマワラビ、タカサゴキジノオ、ハリガネワラビ。
その他 林縁では次のような植物を確認した。
 ヤマキツネノボタン、フユイチゴ、ノブドウ、ワラビ、ゼンマイ、スイバ、シコクアザミ、ウバユリ、マツカゼソウ、ヨモギ、ヒガンバナ、ノブキ、ハリガネワラビ、キンミズヒキ、ケチヂミザサ、ヤマノイモ、ノササゲ、ダイコンソウ、ミゾシダ、ヒメキンミズヒキ。
 3 大惣のサワグルミ林(調査地11 )
  大惣から石堂神社の参道を登ると、その途中の谷筋にサワグルミの優占する疎林が見られる。
  高木層  サワグルミ(1.13m)、(1.09m)、(1.37m)、(1.06m)。
  亜高木層 カジカエデ、ミズキ、ミツデカエデ。
  低木層  ウツギ、ウリノキ、ニワトコ。
  草本層  オオルリソウ、テンニンソウ、ムカゴイラクサ、ウリノキ、ラショウモンカズラ、イシヅチウスバアザミ、サワハコベ、ジュウモンジシダ、フタバアオイ、モミジガサ、ギンバイソウ、オオヤマハコベ、テイカカズラ、タンナトリカブト、ダイコンソウ、イヌトウバナ、ユキザサ、イワボタン、メヤブマオ、サカゲイノデ、ミヤマカタバミ、ヒカゲミツバ。
(3) 冷温帯落葉広葉樹林
 白滝山や火打山の山頂から尾根筋周辺には冷温帯域を特徴づけるブナが優占する樹林がわずかに残されていて、その林床にはフツキソウが群生し、ヤマソテツなどの珍しい植物も見られる。

 1 白滝山周辺のブナ林(調査地12 )
  石堂神社の境内には、モミ(栽)(2.75m)、(1.97m)や、スギ(栽)(3.74m)がある。(増谷正幸氏より、ここのモミは毬果が青い色をしていたので、ウラジロモミではないかとの報告をいただいた。調査時には気づかなかったが、毬果が青紫色であれば、ウラジロモミと考えられる。)その横の樹林にはブナ(3.74m)の巨樹が残っている。この付近から白滝山へ登る尾根筋には、ブナを含む次のような樹林が見られる。
  高木層  ブナ(優占)、クマシデ、イタヤカエデ、アズサ、ハリギリ(2.47m)、ウリハダカエデ、イワガラミ。
  亜高木層 クマシデ、イロハカエデ、クリ、ミズキ、カキ、リョウブ、ヤマネコヤナギ、ミヤマザクラ。
  低木層  コゴメウツギ、コハウチワカエデ、シロモジ、ハイイヌガヤ、ギンバイソウ、ブナ、タンナサワフタギ、サルナシ、ヤマヤナギ、アカシデ、ミヤマガマズミ、ソヨゴ。
  草本層  ミヤマクマワラビ、コゴメウツギ、ミカエリソウ、ミヤマシキミ、ヒロハイヌワラビ、シロバナエンレイソウ、オオバショウマ、シロヨメナ、ヒカゲミツバ、コタチツボスミレ。
 白滝山の山頂へ向かう尾根周辺の半田町側は殆どが、スギやヒノキの植林になっているが、山頂近くでは次のような樹林が自然林に近い状態で見られる。
  高木層 ブナ(優占)(2.47m)、ミズナラ(3.31m)、ツガ(1.43m)、ハコヤナギ、リョウブ(1.14m)、イタヤカエデ、ウラジロモミ。
  亜高木層 リョウブ、ツガ、ミズナラ、コバノトネリコ、ヒメシャラ、ミヤマザクラ。
  低木層  シロモジ、ヤマシグレ、オトコヨウゾメ、マンサク、リョウブ、タンナサワフタギ、ヤマウルシ、オオイタヤメイゲツ、コシアブラ、ヤマアジサイ、フサザクラ。
  草本層  シシガシラ、ホウチャクソウ、シロモジ、ミヤマクマワラビ、ツタウルシ、カラクサイヌワラビ、シロヨメナ、ユキザサ、フサザクラ、トウゲシバ、ブナ、ウスゲタマブキ、ツヤナシイノデ、シコクスミレ、サカゲイノデ、ヤマソテツ、オオカメノキ、ミヤマクマザサ、ヤマボクチ。

 2 白滝山の山頂周辺の植物(調査地12 )
  山頂周辺にはヒノキの植林地などもあって自然林らしい樹林は無く、丈の低いダケカンバが多く、白くはがれた樹皮がよく目だつ。この付近には次のような低木が生育している。
  ダケカンバ、リョウブ、ウリハダカエデ、アカマツ、コバノミツバツツジ、ヤマヤナギ、ヤマツツジ、ナナカマド、シロモジ、シラカンバ(栽)、ノリウツギ、クロヅル、ヤマブドウ、サイコクキツネヤナギ、ナガバモミジイチゴ、コハウチワカエデ、ケヤマハンノキ、ヒコサンヒメシャラ、ベニドウダン、オオイタヤメイゲツ、ミズナラ、イヌシデ、ハコヤナギ。
 山頂周辺の開けた場所には次のような草本類が見られた。
  コウゾリナ、アサマリンドウ、ヨモギ、ネバリタデ、ツリガネニンジン、ハクサンシャジン、ススキ、オミナエシ、ナンゴククガイソウ、ホソバシュロソウ、ヒヨドリバナ、シコクトリアシショウマ、ホソバヤマハハコ、シコクフウロウ、トゲアザミ、タカネオトギリ、イシヅチコウボウ、ヒメノガリヤス、シモツケソウ、マツムシソウ。

3. 本町の特記すべき植物
 (1)珍しい植物
  1 シロバナトモエシオガマ(新品種)
   大惣にトモエシオガマに混じって白花のものが生育している。これにはまだ学名が与えられていないので赤澤時之・阿部近一の命名により次のように報告する。
   Pediculris resupinata L. , Sp. PL. ed. 1. 608 (1753)
   var. caespitosa Koidzumi in Bot. Mag. Tokyo. XXXIX.1 (1925)
   from. leucantha Abe et Akasawa from. nov.
   Flores albi.
   Nom. Jap. Shirobana-Tomoe-Shiogama (nom. nov.).
   Hab. Shikoku : prov. Awa, in. monte Shiratakiyama, circa Ohosonem, oppidi Handa, tractus Mima (Y. Akasawa ! Sept. 23, 1991. No.91-A-301.-type in Herb, Mus. Praefect. Tokushima.
   阿波学会の半田町総合学術調査の際に、大惣から白滝山の登山道脇に紅紫色花のトモエシオガマ(母変種)の中に点々と白色花のものが混生しているので新一品種と認め、阿部近一氏と共著で上記の如き学名 Pediculris resupinata L. var. caespitosa Koidzumi from. leucantha Abe et Akasawa の学名とシロバナトモエシオガマの和名を付けて発表することにした。学名はシオガマギクの中に白花品があり f. albi flora と名付けられているので、これらとの混同を避ける為に leucantha の種小名(epithet)を特に択んだ。基準種の標本は徳島県立博物館に収納保管をお願いする。なお、正式発表は改めて正規の手段でする。(文責赤沢)(IX. 25, 1991. 記)。

  2 ヤマホタルブクロ Canpanula p-unctata Lam. var. hondoensis (Ki-tam.) Ohwi
   主に本州に生える植物であるが、本町の高清や白石および三加茂町水の丸などには多く生育していて珍しい。白花と紅紫色のものがある。

  3 トゲアザミ Cirsium japonicum DC. var. horridum Nakai
   白滝山から石堂山の尾根道に生育している。
  4 モリアザミ Cirsium dipsacolepis (Maxim.) Matum.
   天皇などのコナラ林内に見られる。
  5 イブキボウフウ Seseli libanotis Koch var. japonica H. Boiss.
   日浦や小野の道ぶちに生育しているセリ科の多年草。
  6 フッキソウ Pachysandra termi -nalis Sieb. et Zucc.
   白滝山周辺の林内に群生していて珍しい。
  7 ツチアケビ Galeola septentrio -nalis Reichb. fil.
   葉緑体をもたないラン科の腐生植物で小谷の林床に生育している。
  8 ナンカイギボウシ Hosta cathayana Nakai
   栽培していたものが逸出したものと思われるが、高清の果樹園のあぜに野生状に生育している。
  9 カギカズラ Uncaria rhynchophylla(Miq.)Miq.
   アカネ科のつる性木本で主に暖地に生育するため県南に多く生育している。本町の半田川沿いの山の斜面に群生が見られる。
  10 イシヅチコウボウ Anthoxanthum sikokianum Ohwi
   四国、九州などの高い所に生育するイネ科の多年草で、白滝山や火打山の山頂付近に生育している。
  11 カスミザクラ Prunus verecunda (Koidz.) Koehne
   山地に生えるサクラで、一般にヤマザクラより遅く開花する。日浦の石堂神社の周辺や土々呂の滝周辺などに生育が見られる。
  12 コイワカンスゲ Carex chrysolepis Franch. et Savat.
   本県では石立山や三嶺などの岩場に生育しているものであるが、東毛田の川岸にも見られて珍しい。
  13 ヤマソテツ Plagiogyria matsumureana Makino
   東祖谷山村や西祖谷山村の山中に生育しているが、本町の白滝山でもわずかに生育が見られる。
 (2)珍しい栽培植物・帰化植物
  1 トチュウ Eucommia ulmoides Oliv.
   中国原産の落葉樹で葉や樹皮を薬用とするため、紙屋などの農家で栽培している。
  2 チャンチン Toona sinensis Roem.
   中国原産の落葉高木。収穫した稲をつるす稲架用に植えたり、屋根よりも高く成長するので落雷防止のために植えたりする。紙屋の道路ぶちに植えられている。
  3 シラカンバ Betula platyphylla Sukatchev var. japonica (Miq.) Hara
   一般にシラカバと呼ばれる樹皮の白い高木で、北海道や本州中部以北に生える。白滝山の山頂に植えられたと思われるものがある。
  4 オオキツネヤナギ(?) Salix futura Seemen
   主に本州の中部・関東地方に生育するものであるが、本町の天皇にそれらしきものが多く見られる。切花用として畑に栽培されたものと思われるが、現在は十分に管理されていない。

  5 キササゲ Catalpa ovata G.Don
   その実を薬用にするために栽培する。高清の人家や川ぶちに見られる。
  6 キハダ Phellodendron amurense Rupr.
   山地に自生する落葉高木であるが薬用として畑に栽培している。
  7 キゾメカミツレ Anthemis arvensis L.
   欧州原産の帰化植物で大惣の新しくできた路傍に帰化。
  8 ミヤガラシ Rapistrum rugosum (L.) All.
   欧州原産のアブラナ科の1年草で、脇町岩倉の道路ぶちに帰化しているのが初めて見つかったが、本町の中藪でも多く生育が見られた。
 (3)巨樹・老木
  12 エドヒガン Prunus pendula Maxim. forma cendens (Makino) Ohwi
   山地に自生する大形のサクラで、紙屋の岡見堂には胸高周囲 3.35m と 2.48m の木があり、春には見事な花を咲かせる。

  13 バロウの大ザクラ(ヤマザクラ) Prunus jamasakura Sieb. ex Koidz.
   徳島県指定天然記念物(昭和57年12月指定)で胸高周囲 5.60m のヤマザクラの巨樹。周辺が杉の植林になっているため、杉の成長に伴って日当たりが悪くなり、張り出した枝が枯れ落ちている。スギの植林中にすっぽりと囲まれた状態なので、中央部分だけは日当たりも良く、開花が見られた。樹幹にはキノコが着生し樹勢も衰えているので更に手厚い保護を要する。

  14 高清の大杉(スギ) Cryptomeria japonica (Linn. fil.) D. Don
   徳島県指定天然記念物(昭和34年6月12日指定のスギの巨樹。同じ場所に2本有る。1本は胸高周囲 6.30m、樹幹は地上約5m 付近から上部に、枯れて白骨状になった多数の枝をつけ、約 10m 付近から2つに分かれている。樹勢は良好。
   他の1本は胸高周囲 8.48m の巨樹で、地上約2m の部分から幹は6本に分かれ、その一部は更に上部で分かれている。
   木の下には祠がある。
  15 瀧宮神社・八坂神社のソテツ Cycas revoluta Thunb. ex Murray
   幹の周囲 2.48m の大木で地上約 60cm の部分から6本の太い枝を分かち、半径約3〜4m四方に張り出している。樹の高さは約3m あり、それぞれの枝は折れないように合計13本の石柱で支えられている。
  16 中薮庵のカゴノキ Actinodaphne lancifolia (Sieb. et Zucc.) Meisn.
   中薮庵にカゴノキ(胸高周2.97m)の古木がある。樹幹の下部は多数こぶ状に膨れ、ノキシノブ、クワ、ツタ、カラムシなどが着生している。狭い敷地内にあるため、道路に面した枝は伸び出るたびに切りつめられている。しかし、幹の下部からは多くの枝が出て樹勢は旺盛である。
  17 三社神社のイチイガシ Quercus gilva Blume
   下竹の三社神社にはイチイガシ(胸高周5.51m)の大木がある。
  18 日浦の石堂神社のブナ Fagus crenata Blume
   標高460mの低山であるにもかかわらず境内にブナ(胸高周1.97m)が生育する。
 (4)その他の要記録植物
  紙面の都合で半田町の植物目録全ては記載できないので、比較的重要と思われるものだけあげると次のようなものがある。
  おしだ科:オオゲジゲジシダ・サトメシダ・ミヤマイタチシダ・ツヤナシイノデ・サイコクイノデ・サカゲイノデ・ヌリワラビ、 きじのおしだ科:ヤマソテツ、 うらぼし科:アオネカズラ、 まつ科:ウラジロモミ・カラマツ(栽)、 やなぎ科:ヨシノヤナギ・フリソデヤナギ(栽)・オオタチヤナギ・タチヤナギ・オオキツネヤナギ(栽)・ヤマネコヤナギ、 くるみ科:オニグルミ・サワグルミ、 ぶな科:ブナ・アオナラガシワ・ナラガシワ・ツクバネガシ・イチイガシ・シラカシ、 いらくさ科:ヤマミズ・ミヤマミズ、 うまのすずくさ科:フタバアオイ・クロフネサイシン、 たで科:オオケタデ・タニソバ・ネバリタデ・サクラタデ・オオミゾソバ・ヤノネグサ、 もくれん科:タムシバ、 ふさざくら科:フサザクラ、 きんぼうげ科:オウレン・タンナトリカブト・ニリンソウ・シュウメイギク(栽)、 くすのき科:ケクロモジ・シロモジ、 あぶらな科:ワサビ・ユリワサビ・コンロンソウ・ミヤガラシ、 ゆきのした科:シコクトリアシショウマ・クサアジサイ・ヤマアジサイ、ジンジソウ・ヤマネコノメソウ・ヒメウツギ・ギンバイソウ、 ばら科:ミヤマフユイチゴ・クロイチゴ・ツクシイバラ・エドヒガン・カスミザクラ・ウスゲヤマザクラ・ウワミズザクラ・ミヤマザクラ・ナナカマド・ウラジロノキ・シモツケソウ、 まめ科:カワチハギ・フジカンゾウ、 ふうろそう科:シコクフウロ、 にがき科:ニガキ、 みかん科:キハダ・ミヤマシキミ、 せんだん科:チャンチン、 とうだいぐさ科:ユズリハ、 つげ科:フッキソウ、 もちのき科:ナナミノキ、 にしきぎ科:クロヅル、 かえで科:カジカエデ・アサノハカエデ・ウリカエデ・オオモミジ、 あわぶき科:ミヤマハハソ、 さるなし科:マタタビ・サルナシ、 つばき科:ヒメシャラ・ヒコサンヒメシャラ・ナツツバキ、 おとぎりそう科:トモエソウ・ナガサキオトギリ・タカネオトギリ、 すみれ科:コミヤマスミレ・ヒゴスミレ・ヒナスミレ、 ぐみ科:ナツグミ、 じんちょうげ科:ミツマタ、 うこぎ科:ハリギリ・タカノツメ・トチバニンジン、 せり科:ウマノミツバ・ヒカゲミツバ・シラネセンキュウ・シシウド・イブキボウフウ、 みずき科:ハナイカダ、 いちやくそう科:ギンリョウソウ・ギンリョウソウモドキ、 つつじ科:ホンシャクナゲ・ウスノキ・べニドウダン・コバノミツバツツジ・トサノミツバツツジ・キシツツジ、 ががいも科:スズサイコ、 しそ科:ラショウモンカズラ・ナギナタコウジュ・フジテンニンソウ、 ごまのはぐさ科:ヒナノウスツボ・ココノエギリ・ヤマサギゴケ・イヌノフグリ・トモエシオガマ・シロバナトモエシオガマ・ナンゴククガイソウ・ビロウドモウズイカ、 あかね科:ハシカグサ・キヌタソウ、 いわたばこ科:イワタバコ、 すいかずら科:ヤブデマリ、 うり科:モミジカラスウリ、 おみなえし科:オミナエシ、 まつむしそう科:マツムシソウ、 ききょう科:ツリガネニンジン・ハクサンシヤジン・ホタルブクロ・ヤマホタルブクロ・ツルニンジン、 きく科:ノブキ・シロヨメナ・タニガワコンギク・ホソバコンギク・センボンヤリ・ホソバノヤマハハコ・モミジガサ・ウスゲタマブキ・シコクアザミ・トゲアザミ・ヒヨドリバナ・ヤマボクチ・イシヅチウスバアザミ・コウヤボウキ・シュウブンソウ・ヤブレガサ・モリアザミ、 いね科:ツクシスズメノカタビラ・オオイチゴツナギ・ネズミガヤ・ヒメノガリヤス・イシヅチコウボウ・ササガヤ、 かやつりぐさ科:ヤマアゼスゲ・ヤマジスゲ・コイワカンスゲ・オオナキリスゲ、 さといも科:マムシグサ・ユキモチソウ・オオハンゲ、 ゆり科:ホソバシュロソウ・ヤマジノホトトギス・ナンカイギボウシ・ノカンゾウ・ヒロハノアマナ・シロバナエンレイソウ、 らん科:ムヨウラン・フウラン・ツチアケビ・クモキリソウ・サイハイラン。
4.植物の保護について
 本町の大部分の山林はスギ・ヒノキ等の植栽林となっているが、白滝山や火打山の周辺や各所の社寺林にはまだ貴重な植物が残されている。これらの植物は、水資源の確保、災害の防止、環境保全等に重要であるばかりでなく、開発による自然荒廃が進む中で町民あるいは県民全体のわずかに残された貴重な財産である。このことを十分に認識し、これらの植物の生育する自然を子孫に伝え遺していくことが我々の務めであると考える。
 幸いにも町当局によって時宜を得た保護対策が試みられていることに対し、敬意を表するとともに、今後更に充実した保護施策が講じられることを期待する次第である。
   (文責 木下 覚)

参考文献
岩崎正夫編 1972 徳島の自然 地質1 徳島県
北村四郎・村田源・堀勝 1957 原色日本植物図鑑(上)保育社
北村四郎・村田源 1961 原色日本植物図鑑(中)保育社
北村四郎・村田源・小山鐵夫 1964 原色日本植物図鑑(下)保育社
牧野富太郎 1970 牧野新日本植物図鑑 北隆館
長田武正 1979 原色日本帰化植物図鑑 保育社
阿部近一 1990 徳島県植物誌 教育出版センター
宮脇昭編 1982 日本植物誌 四国編 至文堂
大井次三郎 1975 日本植物誌 至文堂
佐竹義輔・原寛 編 1989 日本の野生植物 木本I 平凡社
佐竹義輔・原寛 編 1989 日本の野生植物 木本II 平凡社


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