阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第38号
半田町の真正蜘蛛類

博物班(徳島県博物同好会)

            真鍋佳資

 はじめに
 筆者は阿波学会半田町総合学術調査に参加し、調査期間以外にも独自で調査するなどして、半田町の真正蜘蛛類を調査した。半田町は徳島県の北西部に位置し、北は吉野川、南は四国山地を含み、半田川周辺の耕作地以外は4分の3は山地である。クモの種類も多く出て来るだろうと意気ごんでいたが、調査期間が短く限られた調査範囲で、しかも雨天が多かったせいか18科68種の分布、生息を確認したに止まった。今後精査を要する、魅力ある町である。クモ類は害虫を捕食して、人間のために衛生面、農産面で益すること大であり、今後無農薬野菜、無農薬林業を考えるには、クモの利用を考えなくてはならないであろう。しかるにクモは農薬に弱いので開発の際には適正な環境を保持されるよう願ってやまない。なお今回の調査に際し、同定では坂東治男氏、採集では秋山義弘氏のご援助をいただいた。紙上ながら厚く感謝の意を表したい。
調査概況
1.調査地域および調査日


 1.八坂神社    90.11.15
 2.高地三所神社  91.6.26
 3.十二所神社   91.6.26
 4.高屋の石堂神社 91.8.16
 5.白滝山     91.9.23

2.調査方法
 樹上、石の下等はハンドソーティング、落葉の中はシフテイング、木の枝はビーティング、草原はスィーピング等により調査した。
採取目録と解説
  Atypidae ジグモ科
1.Atypus Karshi Doenitz. ジグモ
 日光の直射しない樹木の根元、石垣などの下方に住み、地上及び地中に鉛筆ほどの管状の巣を作り、地上部の巣の外側を通る昆虫を捕食する。幼少の頃、巣を引き上げるとクモ
を捕えられるので、けんかをさせて遊んだ。
  Ulobridae ウズグモ科
  山地の日かげ・石垣の中などに小さい水平円網を張り、中央に渦巻状のかくれ帯をつけ、これにかかる小昆虫を捕食する。
2.Uloborus varians B■S. et STR.
3.Uloborus sybotides B■S. et STR.
  Pholcidae ユウレイグモ科
  体は半透明で足が長く、ひ弱な感じで、家屋内外の暗い所に住み不規則な棚状の網を張り、巣に近づくと巣を揺って相手をおどす。
4.Pholcus crypticolens B■S. et STR.
5.Pholcus phalangioides (Fuss LIN).
  Theridiidae ヒメグモ科
6.Achaearanea tepidariorum (C. KOCH) オオヒメグモ
  屋内に多く、高層ビルの高所にも見られ、新築家屋に真先に侵入してくるのも本種である。成体は立体的な籠網を作り、すすはらいの時に困るのはこの巣である。
7.Achaearanea  japonica B■S. et STR. ヒメグモ
8.Theridion chikunii YAGINUMA バラギヒメグモ
9.Enoplognatha jaronica B■S. et STR. ヤマトコノハグモ
10.Dipoena mustelina (SIMON). カニミジングモ
11.Episinas affinis B■S. et STR. ヒシガタグモ
12.Chrysso punetifera (YAGINUMA). ホシミドリヒメグモ
  Linyphiidae サラグモ科
13.Linyphia  longipedella B■S. et STR. アシナガサラグモ
14.Linyphia yunohamensis B■S. et STR. ユノハマサラグモ
  両種とも木の枝や草の間に皿を伏せたような形の網を張る。
  Urocteidae ヒラタグモ科
15.Uroctea compactilis L. KOCH. ヒラタグモ
  家屋の壁・塀・樹幹等雨のかからぬ所に白色扁平な巣を作り、ここから通信線を放射状に出しこれに虫がふれると飛び出してきて捕える。
  Araneidae コガネグモ科
16.Araneus Ventricosus L. KOCH. オニグモ
  黒色または黒褐色の大型種で、人家付近から山地まで広範囲に住む。
17.Araneus isisawai L. KOCH. イシサワオニグモ
18.Araneus diadenatus CLERCK. ニワオニグモ
  本種はスカイラブで無重力状態での造網実験に用いられたことで有名である。
19.Araneuz pemtagrammicus (KARSCH). アオオニグモ
  緑色の美しいクモ。樹間にキレ網を張り、中央から引かれた呼び糸の先にある葉を巻いてその中にひそむ。
20.Neoscona scylla (KARSCH). ヤマシロオニグモ
21.Neoscona mellotteei (SIMON). ワキグロサツマノミダマシ
  和名はサツマの実(ハゼの実)に似ていることから名づけられた。夜網を張り、朝網をたたみ、昼間は葉末などに静止している。
22.Argiope amoena L. KOCH. コガネグモ
  全国に最も普通な種で、セミ取りに用いるのはこのクモの網である。年中行事としてこのクモを戦わせて遊ぶ地方があり、鹿児島県の加治木町や高知県の中村市は有名。
23.Araniella sp. 学名未決定. ムツボシオニグモ
24.Zilla sachalinensis (SAITO). カラフトオニグモ
25.Argiope buruennichii (SCPOLI). ナガコガネグモ
26.Cyolosa octotuberculata KARSCH. ゴミグモ
  円網を張り、中央に食べかす、塵、脱穀等を縦に連ね、クモはその中に静止すると、見分けがつきにくい。網を張りかえる時は前のゴミを新居に移す。野外に普通。
27.Cyclosa argenteolba B■S.et STR. ギンメツキゴミグモ
28.Nephila clavata L. KOCH. ジョロウグモ
  一見して明瞭なクモで、黄と緑青色の荒い横縞があり、♀の腹部は成熟すると赤くなる。コガネグモをジョロウグモ、或いはジョウラと呼ぶ地方もある。
  Tetragnathidae アシナガグモ科
29.Leucauge magnifica YAGINUMA. オオシロカネグモ
30.Leucauge blanda (L. KOCH). チュウガタシロカネグモ
31.Menosira ornata CHIKUNI. キンヨウグモ
32.Tetragnatha praedonia L. KOCH. アシナガグモ
  渓流や池の上、イネの葉等に水平円網を張り、足が長い。
33.Tetragnatha vermiformis EMERTON. シコクアシナガグモ
34.Tetragnatha squamata KARSCH. ウロコアシナガグモ
  Agelenidae タナグモ科
35.48elena limbata THORELL. クサグモ
  平地から山地にかけて樹間、生垣の間に漏斗状の巣を作る。棚網には縦糸が張られこれにふれた虫は下のシート網に落ちて捕食される。秋に多面体の卵のうを作り、親はこれを保護する。
36.Tegenaria domestica (CLERCK). イエタナグモ
  家の隅などに棚状の網を張り、その奥に漏斗状の逃げ道がある。
37.Cybaeus nipponicus (UYEMURA). カチドキナミハグモ
38.Coelotes exitialis L. KOCH. クロヤチグモ
39.Codotes luetuosus (L. KOCH). メガネヤチグモ
  以上3種は崖の地面、倒木や石の下等に見られる。
  Oxyopidae ササグモ科
40.Oxyopes sertatus L. KOCH. ササグモ
  草間を徘徊し、巧みにジャンプして虫を捕える。卵は葉上に生みつけられ親はこれを保護する。近時スギタマバエの天敵として杉の植林に利用されている。
  Lueosidae コモリグモ科
41.Paedosa pseudoannulata (B■S. et STR). キクヅキコモリグモ
  水田に多く分布し、害虫駆除に貢献している。
  Pisauridae キシダグモ科
42.Dolomedes sulforeus L.KOCH.イオウイロハシリグモ
43.Perenethis fascigera (B■s. et STR). ハヤテグモ
  以上2種は巣を作らず、草間を徘徊し、巧みにジャンプして虫を捕える。
  Clubionidae フクログモ科
44.Chiracanthium japonicam B■S. et STR. ハガキコマチグモ
45.Clubiona japonicola B■S. et STR. ハマキフクログモ
  以上2種はイネ科植物の葉を折りまげて産室を作る。子グモは母親の体を食いつくす。親は自己の体を子グモに与えて死んで行く。
46.Trachelas japonica B■S. et STR. ネコグモ
47.Orthobula crucifera B■S. et STR. オトヒメグモ
  以上2種は体長3mmと微小な種で、シフティングによって得られた。
  Anyphaenidae イヅツグモ科
48.Anyphaena pugil KARSCH. イヅツグモ
  Heteropodidae アシダカグモ科
49.Micrommata virescens (CLERCK). ツユグモ
50.Heteropoda forcipata (KARSCH). コアシダカグモ
  徘徊性のクモで人家に入りこむこともある。ゴキブリ等を捕える。
  Thomisida カニグモ科
51.Xysticus croceus FOX. ヤミイロカニグモ
52.Bassaniana decorata (KARSCH). キハダカニグモ
53.Misumenops Tricuspidatus (FABRICIUS). ハナグモ
  緑色の美しいクモで、草木の葉上を徘徊し、花かげにひそんで虫を待ちうける。前脚をゆっくり方向探知器のように動かす。
54.Oxytate striatipes (L. KOCH). ワカバグモ
55.Misumenops japonicus (B■S. et STR). コハナグモ
56.Lysiteles coronatus (GRUBE). アマギエビスグモ
  Philodromidae エビグモ科
57.Philodromus aureolus CLERCK. コガネエビグモ
58.Philodromus subaureolus B■S. et STR. アサヒエビグモ
59.Thanatus miniaceus  SIMON. ヤドカリグモ
60.Tibellus tenellus (L. KOCH). シャコグモ
  Salticidae ハエトリグモ科
61.Menemerus confusus B■S. et STR. シラヒゲハエトリ
62.Plexippoides doenitzi (KARSCH). デーニッツハエトリ
63.Carrhotus xanthogramma (LATREILLE). ネコハエトリ
64.Phintella versicoler (C. KOCH). メスジロハエトリ
65.Plexippus paykulli (AUDOUIN). チャスジハエトリ
66.Myrmarachne japonica (KARSCH). アリグモ
  なお、標本の中から、次のようなサラグモ科の種が発見されたので付記する。
67.Ummeliata osakaensis (Oi). オオサカアカムネグモ
68.Ummeliata insecticeps (B■S. et STR). セスジアカムネグモ
考察
 クモはその形態から人に嫌われているが、有害昆虫を捕食するので、人間生活に利益していることに注目すべきである。イネ一株あたり30匹ほどのクモが生息し、毎日害虫を捕食してくれているのを、農薬で駆除することに換算すると多額になるであろう。今後、無農薬栽培の必要性が説かれ、クモの研究は人類の将来に必要不可欠のものとなるに違いない。
紹介
 採集したクモのうち、主要なものを数点紹介したい。なお、ヤドカリグモは、筆者にとって初記録のものであった。


徳島県立図書館