阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第38号
半田町の方言

方言班(阿波方言学会)

    川島信夫1)・森重幸2)

1.はじめに
 方言班は、2名が調査に参加し、森が主としてアクセントと語法を、川島が語彙の調査に当たったが、ここでは語彙を中心に発表することにした。
 ところで、方言の第1人者はその土地の人であるという。これは動かしがたい事実である。外部から来た者には、新鮮な感覚で土地の人が気づかぬことを発見することもある。しかし、それも全体から見れば、ごく一部の、しかも表面的な観察であって、その、土地に生まれ育った人の内省観察(自分が今までに使ったり聞いたりした言葉を正しく思い出すこと)にはとうてい及ばない。
 だから、方言調査で一番いいのは、土地の人の手による研究記録である。さいわい古くから文化の程度が高かった半田町では、方言の研究でも金沢治先生や井上一男氏などすばらしい伝統があり、現在も熱心な人が多い。以下の報告は、これらの方々の研究成果を基に、今回教わったことを加えてまとめたものである。結果は不完全なものとなったが、大方のご批正を仰いで、完全に近づけたいと思うものである。

2.かいけ庵
 半田の町の東の入口、小野峠の中程に「かいけ庵」がある。
 庵の名の由来は、「かいけ谷」という小さな谷に沿って建てられているので、その地名によるものと思われる。谷の名であるカイケは欅(けやき)の当地の呼び名だという。
 カイケという方言は、四国各県でかなり広く通用する言葉であったが、最近の若者は、殆ど知らない。消滅しつつある方言の一つであるが、こうして庵号として、しかも仮名書きにして掲示しておくと、半永久的に残ることと思われる。
 「カイケという方言の一つくらい」と言う向きもあろうが、町の入り口にあるこのお庵は、方言保存の一つの象徴ではあるまいか。方言は、郷土で古くから伝えられた文化のエキスである。これは、方言を大切にする半田の人々の心意気を示すものだと思いたい。
 そんな思いから、あえて駄文を述べてみた。願うことは、地元の方々の手によって、当町の方言が、何らかの形で正確に記録されて、消滅が食い止められるように、ということである。

3.美馬の国
 吉野川下流地域の人から「ソラ」と呼ばれている当地域は、下流域とはかなり違って一方言圏を形成している。古代史で、阿波には粟・長2国の他にミマの国もあったという説がある。そんな古いことも思わせるほど言語面にも特徴がみられる。そのうちの幾つかをあげてみる。
◇ アクセント
 “川田のトンネル”が、上郡(かみごおり)(吉野川上流地域)と下郡の、アクセントの境界だと唱えたのは、金沢治先生であるが、これは現在も同じである。「雲が」「色が」など、一部の言葉のアクセントの違いで、ソラの人と言い当てられた経験のある当地の人は多いことであろう。
◇ 語法
○ ハカ・コソ(助詞)しか。
 共通語で「百円しか無い」と言うときの「しか」に当たる語が、こちらでは、ハカ・コソなどになる人がある。これについては、昭和50年代の調査による国立国語研究所の「方言文法全国地図」というのがある。図1のようなものであるが、半田町に最も近いのは穴吹町口山で、シカとハカが出ている。次に近いのは東祖谷山村京上のコソである。西でシカとハカが出ているのは山城町寺野だ。これら三地点に囲まれた当町で共通語のシカの他にハカ・コソが聞かれるのは納得される。


 ハカは香川にも出ているが、これは同じ香川のホカが変ったものであろうか。「百円の他(ほか)はない」が語源と思われるからである。それにしても香川に近い美馬ではある。
 コソは強めの助詞である。古い日本語の名残りであって、この場合も「たったの百円だけ」という気持ちであろう。古いコソの一般的な使い方では、「コソ…ケレ(巳然形)」となる言い方がある。「あの男は色コソ黒ケレ気の弱い人で…」のような言い方をする老人も現存すると聞かされたが、これは確認できなかった。いずれにしても山分を中心に古い語法が比較的多いことは確かなことである。
○ミジョ・ミジョー(副詞)みごとに、大丈夫。
 「ミジョー人で行くか」(一人で行く自信があるか)のように、可能を表わす副詞である。これは、県内の他の地域では、ケッコまたはヨーとなるところである。県内で通用しなくても、これも香川では使われる所が多いものである。
○ザッタ(助動詞+助動詞)…なかった。
 「行かザッタ」(行かなかった)は山分の老年層でまだ残っている。干支の中、三猿の「見ざる」などと同じ古語の残った、過去の打消し用法である。
◇ 語彙
○イカ(たこ)
 日谷尾の山の上に、イカガカリ地蔵という所がある。言い伝えによると藩政時代の某日徳島城下で藩主の揚げたイカ(凧)が、ここまで飛んできて引っ掛かった。そこに地蔵を造立し、イカガカリ地蔵と呼んだので今に地名として残ったのだという。
 地名にも残っているように、当町では凧のことを現在でもイカと呼ぶ人が多い。これは、県内でも他の地域の人を驚かす方言の一つである。この事情は、昭和30年代の調査に基づいて作図した国立国語研究所の「日本言語地図」によってもよく分かる。


 なお、この地図は県内だけを取り出して作図したものであるが、県外に目をやると、香川は全県的にイカとなっている。四国では香川に隣接する愛媛の一部に少しイカが出ているだけで、あとはすべてタコであるが。
○ホレ(惚れ・馬鹿)
 ホレルという言葉は、現在は主に(恋慕する)に使われるが、もとの意味は(惚れ)で放心する状態をさすようである。このホレが元の形で残り、意味が少し変わったのが、当地では使われている。「うちの息子も、まんざらホレでもなかったわ」(全くの馬鹿でもなかった)などという。この場合は、むしろほめ言葉であるが、普通には、ドボレ・クソボレなど、罵称の接辞がつく。悪口雑言の一種である。
○ソロ(土をふるう箕(み))
 これは美馬・三好だけの語だといわれる。竹製であり、同じものでトタン板製のものはカナゴミという。
 この他に珍しいものに、イデンコ(小さな用水溝)、タチマイ(建前・棟上げ)、モバ(川のごみ)、ゴーサイ(合財・雑物何でも)、キンコボシ(げんこつ)など。

4.香川との交流
 徒歩が交通の主流であった昔の人は山越えを苦にしなかった。隣接の西讃地方との交流が深かったのは当然である。方言の面でも関係は深い。アクセントも似ているし、前項で挙げた・ハカ・ミジョー・イカなども香川と同じことにふれた。この他に普通の方言を二三挙げてみる。
○デカ(助詞)
 疑問・勧誘あるいは強めを表す文末助詞である。香川でも使われているが、「香川県方言辞典」には、(元来は徳島の方言である)と断っている。
 これと同系のデワとは、当地の方言の特色の一つである。
○タカタカイビ(中指)
 中指をタカタカイ(ユ)ビと言うのは県内では珍しいが、香川では多いようだ。
○クヤク(不平・不満)
 “クヤクやかましジューヤク臭い”という十薬(どくだみ)に係わる言い草があるという。クヤクという数字を連想させる里言があったから十薬と並べて口調のよい言い草が生まれた。クヤクは阿波よりも讃岐に通じる方言である。
○チンピラコ・チンピラ(ぶらんこ・ぶら下がること)
 チンピラというのも、おもしろい方言だ。これも香川県でよく聞かれる方言らしい。
○マクレル(動)ころがる。ころげ落ちる。
 これもおもしろい方言だが、香川と共通しているようだ。

5.里言集
 共通語でなく、ある地域だけに通用する言葉(いわゆる方言)を、方言学では里言という。半田町だけと言い切れる方言はまず無いが、一応列挙してみた。序列は今後一般化するかと思われるJISコード五十音順とした。里言の後の〈 〉内は動植物。( )内は品詞別である。
    ア
アイラ あの人達。
アカガシ〈植〉 たぶのき。
アカゼミ〈動〉 あぶらぜみ。
アガリバナ 玄関口。
アギト あご。
アサイキ 朝。
アサッパチ 朝早く。
アシナカ 短い草履。
アズル(動) 困る。苦労する。
アセブ〈植〉 あせび。
アソーザ 朝方。
アダタン(句) 容器に入りきらぬ状態。
アブラムシ〈動〉 ごきぶり。
アホダマ 馬鹿者。
アマンジャコ〈動〉 あまがえる。
アリンド〈動〉 あり。
アンジョー(副) うまく。上手に。
アンニャ 兄。兄者。
アンバイ 味かげん。
アンバイガワルイ(句) 病気になった。
アンポ 馬鹿者。
    イ
イカ 凧(たこ)。
イギ かご。
イサマシイ(形) 元気な。健康な。
イシタタキ〈動〉 せきれい。
イシナゴ おはじき(白い小石を使って)。
イスコイ(形) 強情な(子供の)。
イタンポ〈植〉 いたどり。
イデボシ さつま芋の煮干し。
イデンコ 用水溝。
イトソ 糸。
イド 肛門。
イドノ 湯殿。ふろ。
イモアナ さつま芋貯蔵穴。
イモギク〈植〉 きくいも。
イロベル(動) いじめる。
イワジシャ〈植〉 いわたばこ。
イワタ 岩石。
    ウ
ウグロモチ〈動〉 もぐら。
ウシンガ 牛鍬。
ウズク(動) 痛む。
ウチマ 親類。
ウッチャ 私
ウモレル(動) むし暑い。
    エ
エノミ〈植〉 えのき。
    オ
オイゴ 赤ん坊を背負う着物。
オイトコ 親しい人(男性)。
オイランソウ〈植〉 くさきょうちくとう。
オード 雨戸。
オーブタ ひさし。
オガ〈動〉 かめむし。
オクモジ 漬け菜。
オクレヤ(句) 下さい。
オグロモチ〈動〉 もぐら。
オコライ(句) 堪忍して下さいの意。
オゴッツォ ごちそう。
オサギ〈動〉 うさぎ。
オシメ むつき。
オシンゾ 主婦。
オジャン お手玉。
オタタ 母。
オチツキ 本膳の前に出す食事。
オトキ 葬式直前の酒宴。
オトコシ 男。男衆。
オトゴ 末子。
オトミ 物を貰った時返しに入れる小品。
オドエラ お前たち(罵)。
オドレ 貴様(罵)。
オドレンク 貴様の家(罵)。
オドロク(動) 目が覚める。
オナギ〈動〉 うなぎ。
オナゴシ 女。女衆。
オニノメッキ〈植〉 ひいらぎ。
オハチ 飯びつ。
オバコ〈植〉 おおばこ。
オバヤン おばさん。
オヒラキ 閉会。
オブケル(動) 驚く。
オブショ お仏餉。布施(庵への)。
オベン〈植〉 あけび。
オミーサン 雑炊。
オメシ 昼食。
オモツ むつき。おむつ。
オヤガタ 大家の総領息子。兄(弟から)。
オヤッサン 父。
オランク ぼくの家。
オンガイ 容態。病気の具合。
オンゴ 赤土。
オンビキ〈動〉 ひきがえる
    カ
カーガラス〈動〉 かわがらす。
カーヤン 母。
カイケ〈植〉 けやき。
カイサマ 裏返し。
カイナイ(形) 少し足りない。不満足。
カエ(助) 疑問または呼びかけ。行かんカエ(行きませんか)。
カガマ 膝がしら。
カガミゼミ〈動〉 くまぜみ。
カザ 臭い(におい)。
カタデ(副) 全く。
カタンマ 肩車。
カツレル(動) 飢える。
カド 庭。
カナゴミ 土箕(み)(トタン製)。
カマギ かます。
カマツカ〈植〉 つゆくさ。
カヤル(動) 倒れる。
カライモ〈植〉 さつま芋。
カラカミ ふすま(建具)。
カラスノオベン〈植〉 からすうり。
カワ 涌き水の山の中の井戸。
カンネカズラ〈植〉 くずかずら。
カンマン(句) 構わぬ。差支えない。
ガイニ(形動) ひどく。強く。
ガチャガチャ〈動〉 くつわむし。
ガヤ〈植〉 かや。
ガラタチ〈植〉 さるとりいばら。
    キ
キドイ(形) じれったい。
キビシュー(副) 甚だしく。
キビショ 急須。
キューシューイモ〈植〉 さつま芋。
キラレ〈動〉 あぶらむし。
キリボシ 干し芋。
キリモン 着物。
キンコボシ げんこつ。
キンバン 交替で神仏に仕える人。勤番。
ギシクナ(形動) 謹厳な。
     ク
クイゴク 食い競べ。
クジ 裁判。
クズバ 葛(くず)。
クソイキ むちゃくちゃ。
クソバイ〈動〉 おおくろばえ。
クソベイ(形) 重い(赤ん坊が)。
クソボレ 馬鹿者。
クビンマ 肩車。
クマンバチ〈動〉 すずめばち。
クヤク 不平。不満。
クワル(動) 痛む。
グイ とげ。グイがささる。
グイミ〈植〉 なつぐみ。
グチナイチゴ〈植〉 へびいちご。
グチナガ〈動〉 蛇。
グチナゴ〈動〉 蛇。
グモ〈動〉 くも。
     ケ
ケタイクソワルイ(形) 気にいらず腹立たしい。
ケナイ(形) 消耗が早い。
ケニ(助) から。風が吹くケニ寒い。
ケンド ふるい(農具)。
ケンビキ 肩のこり。
     コ
コエグロ 刈り草を野に堆積したもの。
コエノ 草野。
コーカ〈植〉 ねむのき。
コーゲ〈植〉 しば。おにしば。
コケバクチ いつも勝負に負ける人。
コシキ せいろ。
コジュートガエ 交互に嫁をとること。こじゅうとを実家の嫁にやる。
コソ(助) 僅少の意。10円コソ無い。
コバク〈植〉 小麦。
コマザラエ 爪の多い熊手。
コワル(動) 痛む。
コンゴオイ 僧りょのお伴。
コンツラナ(連体) このような。
ゴイト・ゴート〈動〉 かえる。
ゴイトノコ〈動〉 おたまじゃくし。
ゴーサイ 雑物何でも。合財。
ゴーシモ〈植〉 じゃがいも。
ゴータ〈動〉 かえる。
ゴジャメンナシテ(句) ごめん下さい。
ゴジャ でたらめ。
ゴテル(動) もめる。
ゴトヒキ 無用の長話をする人。
ゴド むだ話。
ゴメンナハレ(句) ごめんなさい。
ゴンボー〈植〉 ごぼう。
     サ
サガシイ(形) 傾斜が急な。
サガリマメイチゴ〈植〉 きいちご。
サコ 山の尾と尾の間の峡部。
ササバ 二本刃の草取り小鍬。
サンゲン〈動〉 とのさまがえる。
サンヤン 良家の女の子。
ザッタ(助動) 見ザッタ(見なかった)。
ザマクナ(形動) 無秩序な。不作法な。
    シ
シケル(動) 恥ずかしがる。
シジュム(動) 沈む。
シタキ 堆肥にする山野の草木。
シタト(副) 大変に。
シツケ 植付け。
シテル(動) 捨てる。
シトヨ ひとえ(単衣)。
シマ 広い田園。
シャエンモン そ菜類。
シャクナン〈植〉 しゃくなげ。
シャシャブ〈植〉 あきぐみ。
シャッポ 帽子。
シャレ(補動) 行かっシャレ(行ってください)。
ショーラシイ(形) よく働く。
ショワシイ(形) 忙しい。
シンギク〈植〉 しゅんぎく。
ジイモ〈植〉 里芋。
ジーサンバーサン〈植〉 しゅんらん。
ジーヤン 祖父。
ジキタビ 地下足袋。
ジザイ いろりの上のつるしかぎ。
ジビガニ〈動〉 さわがに。
ジャキチ〈植〉 からたち。
ジューヤク〈植〉 どくだみ。
ジョンサ 長らく。
ジンゾク〈動〉 ちちぶ。
ジンベー 夏用そでなし。
     ス
スイジンサン〈動〉 あめんぼう。
スイッチョ〈動〉 まつむし。
スミスゴ 炭俵。
ズク(動) ふくれる。すねる。しかる。
     セ
セコイ(形) 苦しい。
セワル(動) せきたてる。
センキョー 先日。
センザイ 庭園。前裁。
センダノキ〈植〉 せんだん。
センニチコブ くるぶし。
ゼニゴ〈動〉 あいかけ。
     ソ
ソーレンバナ〈植〉 彼岸花(まんじゅしゃげ)。
ソクサイ 健康。
ソラ 吉野川上流地域(下流域で言う)。
ソラズ〈植〉 そらまめ。
ソロ つちみ(農具)。
ゾヨ(助) 警告。詠嘆。いかんゾヨ(いけませんよ)。
    タ
ターラ 俵。
タイショー 戸主。
タカタカイビ 中指。
タカユビ 中指。
タカラバチ 竹の子皮の笠。
タグル(動) せきをする。
タケカヤシ 長さ 12cm ほどの竹片を掌に乗せ表裏返しの技を競う遊び。
タケザシ 上記の竹片。
タケナゴ タケザシに同じ。
タチマイ 建前。棟上げ。
タノキ〈動〉 たぬき。
タノシ〈動〉 たにし。
タンポコ〈植〉 たんぽぽ。
ダイラ〈動〉 おにぐも。
ダルゴエ 人糞尿。
    チ
チカシュー 近ごろ。
チカンマ 竹馬。
チソ〈植〉 しそ。
チチブシャ〈動〉 いもり。
チミキリソウ〈植〉 まつばぼたん。
チミキル(動) つみ切る。
チメタイ(形) 冷たい。
チャコシ 急須。
チャノコ 朝食。
チョーケ 手桶。
チョーコ〈動〉 ちょう。
チョーサ 祭のみこし。
チョーズ 手洗い(便所)。
チョーセン〈植〉 かぼちゃ。
チョーナ まさかり。
チョットナイ(副) 少しの時間。
チンピラコ ぶらんこ。
     ツ
ツエル(動) 崩壊する。
ツカ(動) 下さい。
ツキミソウ〈植〉 まつよいぐさ。
ツバエル(動) ふざける。あばれる。
ツバケ つば。
ツベ おしり。
ツベクソ 余計なこと。
ツベフリドリ〈動〉 せきれい。
     テ
テシオ 小皿。
テダコ むだなこと。
テノゴイ てぬぐい。
テブシ 手の甲。
テンガ 唐鍬。
テンゴ いらぬこと。
テンデナイ(句) 一つもない。
デカ(助) 丁寧語のデに疑問のカ。行くデカ(行きますか)。
デカシタ(句) よかった。
デキアキ 収穫直後。
デワ(助) 雨デワ(雨ですね)。
デンガク じゃがいもの田楽。
デンチ・オデンチュー そでなし綿入着。
デンデンムシ〈動〉 かたつむり。
     ト
トエル(動) 大声でさけぶ。
トーキビ〈植〉 とうもろこし。
トーナ〈植〉 すぎな。
トカギ〈動〉 とかげ。
トチカン 木材運び用環付くさび。
トヒ うそ。
トボケル(動) 精神病になる。
トマコ〈動〉 いたち。
トリアイ 恋愛結婚。
トリアケ 田畑の前作を整理すること。
トリコノフシ くるぶし。
トロクソ おろか者。
トンガラシ〈植〉 とうがらし。
トンボジョーリ 鼻緒の上を結んだ草履。
ドーブク 胴服。綿入りはんてん。
ドタマ 頭(卑)。
ドテッパラ 腹(卑)。
ドベコキ 言い逃ればかりする人。
ドボレ 馬鹿者(卑)。
ドンガン 河童。
    ナ
ナギタナ 菜刀。
ナスビ〈植〉 なす。
ナハレ(助動) 見ナハレ(見て下さい)。
ナバエル(動) 斜にする。
ナベラ 平な石。
ナヤスイ(形) たやすい。
ナルイ(形) 傾斜がゆるい。
ナルテン〈植〉 なんてん。
ナンバ〈植〉 とうもろこし。
    ニ
ニッシャ 西側。西方。
ニドイモ〈植〉 じゃがいも。
    ネ
ネーヤン 姉。
ネショー 女子。
ネジボシ ほし大根。
ネゾギ〈植〉 いぬつげ。
ネブカ〈植〉 ねぎ。
ネブレノキ〈植〉 ねむのき。
ネンゴー 自慢。
ネンジン〈植〉 にんじん。
    ノ
ノミン〈動〉 川魚ハエの子魚。
    ハ
ハザ ふだん。
ハザグイ 間食。
ハシカイ(形) いじがゆい。
ハタタ〈動〉 ばった。とのさまばった。
ハッシャグ(動) 乾燥しすぎる。上機嫌。
ハデ 作物を掛けて干す設備。はさ。
ハナシバ〈植〉 しきみ。
ハブ 歯ぐき。
ハメ〈動〉 まむし。
ハヤズリ マッチ。
ハルノキ〈植〉 はんのき。
ハレ 開墾。
ハンダイ 箱ぜん。
バーヤン 祖母。
バクメシ 麦飯。
バセ 木切れ。小枝など小さい棒。
バッチ ももひき。
バンヤ 門の入口にある部屋。
    ヒ
ヒガッシャ 東側。東方。
ヒゲガニ〈動〉 もくずがに。
ヒシグ(動)  たたく。
ヒジコキ ひじ鉄砲。
ヒトリビキ 手びき鋤。
ヒナズ 苦情。欠点を指摘する。
ヒヤイ(形) 冷たい。寒い。
ヒヤコイ(形) 冷たい。
ヒュージ〈植〉 からむし。
ヒューリ〈動〉 蚕の蛾。
ヒョロケ 役に立たぬ者。
ヒルワザ 日中の仕事。
ヒンズ 余分。
ビヤ〈植〉 びわ。
     フ
フズクル(動) 無理に引受けさせる。だまして機嫌をとる。
フタツバ 二本爪の熊手。
フダルイ(形) ひもじい。
フドイモ〈植〉 じゃがいも。
フルツク〈動〉 ふくろう。
フンガイ 不具合。病気。
フングワイナ 軽い病気。
フンダ 余分。
ブク 服忌。
ブチナゴ〈動〉 青大将。
ブッスリ(副) たくさん。
ブンコ 手近におく書籍箱。
     ヘ
ヘヤ 新宅。分家(大惣)。
ヘンシモ(副) 急いで。片時も(早く)。
ベコベコ〈動〉 ありじごく。
ベロ 舌。
     ホ
ホーガシュー 組内衆(葬式の)。
ホーザ 麦のもみがら。
ホーシ〈植〉 土筆。
ホーシコ〈植〉 土筆。
ホーツク(動) さまよい歩く。
ホカッチャ 方角違い。的はずれ。
ホゴエル(動) 泣く。
ホサ 火の子。燃えかす。
ホダ 足。
ホダギ 腐った木。
ホトケンマ〈動〉 かまきり。
ホヤイ(形) やわらかい。
ホリ〈動〉 こくぞうむし。
ホレ 馬鹿物。
ボーフラ〈植〉 かぼちゃ。
ボーフリ〈動〉 ぼうふら。
ボリ 守り。コボリ(子守り)。
ボン 良家の男の子。
ボンゴ 盆に着る新調の着物。
     マ
マイモ〈植〉 里芋。
マクサ〈植〉 めひしば。
マクレル(動) ころぶ。
マツフグリ〈植〉 まつかさ。
マツボリ ヘそくり。
マメクジ〈動〉 なめくじ。
マル まり。ボール。
マンジュサキ〈植〉 彼岸花。
     ミ
ミコシグサ〈植〉 げんのしょうこ。
ミシロ 莚(むしろ)。
ミジョ(副) ミジョやるか(やる自信があるか)。
ミテル(動) 死ぬ。
ミツバ 三本爪の熊手。
     ム
ムイキニ(副) 一所懸命に。
ムクデ〈植〉 むくげ。
ムサイ(形) なかなか無くならない。
ムセル(動) むし暑い。
ムツゴ 六本爪の熊手。
ムツゴ 蚕のさなぎ。
     メ
メグラ まわり。
メコダマ 目玉。
メメズ〈動〉 みみず。
メンメラ 私たち。われわれ(男子)。
     モ
モバ 松の落葉。川のごみ。
モモ〈動〉 むささび。
    ヤ
ヤケハタ 火傷。
ヤニコイ(形) しっかりせぬさま。
ヤマントイ 山の子。
     ユ
ユドーシ さつま芋の煮干し。
ユニゴニイル(句) 淋巴せんがはれる。
ユルリ いろり。
     ヨ
ヨーケ(副) 余計。たくさん。
ヨーメシ 夕飯。
ヨーヤケ 夕焼。
ヨゴミ〈植〉 よもぎ。
ヨゴレベン お上手。お追従。
ヨナイ 与内。全品を出し合い他人を助けること。会費の按分。
ヨワザ 夕方。
ヨンベ 昨晩。
     リ
リキモ〈植〉 さつま芋。
リューキモ〈植〉 さつま芋。
     ロ
ロースイ 雑炊。
     ワ
ワエ(助) いかんワエ(いきませんわ)。
ワカバ〈植〉 ゆずりは。
ワッシャ ぼく。
ワラベナ〈植〉 わらび。

6.おわりに
 今回の報告は主として里言集となった。この中には現在の会話では使われていないものもあるが、聞き言葉として古い方言も残した。町内でも、山間部と平地部では、生活環境の違いから、言葉にもかなりの差異がある。収集した里言には一部地域だけで使われているものも幾つかあるが、力及ばず区別をつけることができなかった。また貴重な里言で漏れたものも多いかと思う。後日追加・訂正したいところである。
 おわりに当たり、積極的にご指導下さった黒川浅市、平田重一、浜川浄、大久保孝夫の各氏や、快く取材に応じて下さった方々のご好意と、町当局の行き届いたご配慮に、心からお礼を申し上げたい。

参考文献 半田町誌(町誌出版委員会) 郷土のあゆみ(半田町東部高齢者教室)
改訂阿波言葉の辞典(金沢治著) 香川県方言辞典(近石秋泰著)
日本方言大辞典(徳川宗賢編) 日本言語地図・方言文法全国地図(国立国語研究所)


徳島県立図書館